TODAY'S
 
2021年度 洛南高附中

 

大問1:志賀内泰弘『京都祇園もも吉庵のあまから帖3』 

 

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 ときどき出題される作家です。ネット上の紹介によれば、「普通では得られない強力な異業種ネットワークをベース」に活動しているそうです。なんだかすごいですね。ただ、そんな謎かけのようなことを言われると、かえって気になります。

 筆者は「経営コンサルタント」をしているそうです。24年金融機関に勤めたと書かれているので、BCGやデロイトなどのコンサルとは違うようです。ちょっとイメージがつかめません。PHPとズブズブなので、ビジネス人脈なのかなと思いました。

 しかし、「プチ紳士運動」なるものを提唱して、講演会によって共感の輪を広げ、3か月で全国70の支部を生み出した「幸せの方程式」の話をする人だと知って、「おや??」と思いました。やけに陳腐であやしくないですか? ビジネスズブズブ人間の「いい話」は、ブラックな労働環境の一輪の花として、上から強要されがちなものだから、ちょっと警戒しておきます。

 

いつも、隣にいる、幸せをお届け│いい話の広場 (giveandgive.com)

 

 私の心が汚れているだけで、実際に、このような素敵に純粋なムーブメントを作り出した人であるなら、この人はNPO法人の代表か、現代における教祖様か。何らかのバックボーンのない講演家というのも考えにくく、不思議なお人です。

 気になったので調べてみると、この人のインタビューが、「真氣光」という波動系の団体にありました。そういう系のつながりがあるのかもしれません(ないかもしれない)。同じ団体の次月のインタビューは稲垣栄洋でした。中学受験国語で、最も多く出題された著者といっても過言ではない稲垣栄洋――さん??

 悪い印象を一方的に持つのも申し訳ないので、教祖のYouTubeチャンネル上の人気コンテンツを貼っておきます。わたしも体験しましたが、おなかが痛くなったりといったことは起きていないので、悪いものではないと思います。ただし、目を閉じてくださいと言われたときに、ちゃんと閉じないといけません。これは絶対です。嘘だと思うなら、まじまじと見つめてみるのもいいでしょう。

 

 

 科学的な裏付けがなくても、偽薬であっても、だれかを生かす力になります。それは正しいことです。「あやしいこと=悪」ではありません。本人が大人であり、なおかつ、それを本人が望んでいれば、他人に迷惑をかけない範囲で、宗教は自由です。しかし、もしも中学受験に、池田大作先生のありがたいお話が出題されたら、創価学会員でも、それは違うと思うはずです。文化に根差していない新興の宗教へと入信するのは、自分自身の問題です。

 ちなみに、関西創価の入試は、ちゃんと国語としての国語です。だから、関西創価の入試問題を、塾の教材として扱うとしても抵抗はありません。創価学会へと勧誘されるわけではないのです。ちなみに去年の関西創価の文章は、ビルマの竪琴と松岡修造でした。

 中学受験の国語として、スピリチュアル系の本や自己啓発本が適切ではないのは、その文章が、だれかへのつながりの一歩となってしまうからです。社長さんたちの出版する成功のヒケツ本も同様の理由で、中学受験では出題されません。資料読解にしても同じで、マクドナルドのメニューを扱ったりはせず、一般的な統計を扱います。

 文学作品は、作品そのものを見るべきなのか、その書き手とともに見るべきか。この著者は、商売人気質の強い洛南っぽい人ではあります。お坊さんの講話と、著者のプチ紳士活動は、似たようなものかもしれません。しかし、普通の国語教師は、この本を手に取っても、著者紹介を見て、見なかったことにして、本を置きます。洛南がこの本に引き寄せられたのは、東寺が登場したからでしょうか。

 

――先生の車で病院へ駆けつけたが間に合わなかった。心筋梗塞で意識不明になったドライバーの車が駅前の雑踏に突っ込んで来た。母親はその中にいた。十名以上の重傷者を出したが、亡くなったのは母親一人だった。

 次の「不幸」が追いかけるようにやってきた。母親のことで自暴自棄になった父親がアルコールに溺れた。自営していた印刷会社が倒産。父親は行方不明になった。

 

 この作者にとって、泣ける場面を作り出す下準備などお手の物です。慣れた手さばきで、あっという間に主人公は不幸に仕立て上げられた。彼の説く「幸せの方程式」とは、一体なんだろう。わたしはその手際にあっけにとられつつ、とてもこわくなりました。そして、心細くなり、この曲を思い出しました。

 

 

 「いつも、隣にいる、幸せをお届け」と、著者のホームページにはあります。幸せをお届けされる前に、なぜだかこんな不幸が届けられたのです。それは間違いなく、この作者が届けたものです。問十二には、「幸運」は「不幸」の顔をしてやって来るというメッセージがありますが、どう着地させれば、わたしはこの本をを好きになれるのだろう。またしても、荒川洋治の詩が、頭をぐるぐる回り出した。これを好きになれれば、幸せになれるのだろうか。

 

問一 書き取り。書ける。

問二 語句。

問三 敬語。

※「お目通し」を出題する感覚がビジネスマン。

問四 書けるが…

※祇園花街の「一見さんお断り」ルールを、他府県から来た受験生が、京都までわざわざ来た記念に学んで帰れる。

問五 語句。                                                                                                   

問六 探せる。

問七 語句。

問八 語句。

問九 ふつうの作家が「幸せ」のことをしゃべるのと、この作者が「幸せ」のことをしゃべるのでは、ニュアンスが違う。

※セミナーという言葉が似合う人だ。みんなコネ作りに余念がない。それが成功のカギのすべてだ。きれいごとでは本当にどうしようもない。

問十 語句。

問十一 東寺の仏像へのディスも、記述問題へと変わる。

問十二 「幸運」は「不幸」の顔をしてやってくるとあるが……。あまり深く考えないようにしよう。

問十三 洛南の先生は、ただ舞台が京都でライトな本だということで選んだのだろう。

 

  

 

大問二:菅野仁『友だち幻想』 

 

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 この10年、中学受験国語のスタンダードであり続けた本。「~でも」という並列の後半から始まるのは、問題作成者の切り取り方がへたっぴな証拠。

 

問一 語句。

問二 カタカナ語の中から、外来語ではないものを選ぶ。変なの。

問三 選べる。

※正解内容に極端表現が含まれるのが不用意。

問四 語句。

問五 探せる。

問六 語句。

問七 語句。

問八 語句。

※このような語句ばっかりが続く形式は、まだ男子校だったころ、後受けする灘中受験生が洛南を受ける後押しとなっていた。

※灘中受験生は、1日目対策で十分に語句をやっているので、甲陽受験生よりも洛南に対してアドバンテージがあった。そして、甲陽受験生は、記述をじっくり考える練習をしているので、この学校のスピード重視の形式には慣れておらず、途中でタイムアップになりがちだった。

※甲陽クラスを担当していた時は、なんて露骨な学校なんだと腹も立ったが、灘クラスを担当したらその腹立ちは消えた。

※連番受験もしてくれるし、塾生の合否ファックスもくれるし、塾に対して本当に親切な学校だった。さすが仏教だ、心が広いなどと、わけのわからないことを思ったものだった。灘や甲陽は向こう側にある存在で、そこへ向けて全力で挑んでいく必要があったが、洛南はこっち側にあり、あれこれ考えるより電話一本という感じだったので、塾にとってありがたい学校だった。その後、洛南は共学化して、一躍女子のトップ校になった。

※中学入学から大学受験まで、中間・期末などを含めて、ずっと洛南の生徒を指導したことで、この学校のことが、とてもよくわかった。

問九 探せる。

問十 多少の忖度をすれば選べる。許容範囲。

 

  

 

大問三:藤原正彦『国家と教養』 

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 ひさしぶりにこの人の文章に触れました。『国家の品格』がベストセラーとなって以降、国粋主義的な感じがして敬遠していたのですが、今回の出題部分は良い感じでした。相変わらずの「情緒」一点張りですが、よい読書論&京都案内になっています。

 

問一 書き取り。「大局」がちょっと難しい。

問二 接続詞。なんとか埋められる。

問三 探せる。

問四 探せる。

※文章中から、設問と同じ文字列を探すという、難関校らしくないぬき出し。

問五 算数。

問六 語句。

問七 選べる。

問八 語句。

問九 選べる。

※本格的な読解に、一切踏み込まない大問だった。理系の子が欲しいというあからさまな意思表示として、すがすがしい問題ではある。

 

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