【月天】
 月天「がってん」は、世界を守護する「8方天」密教の「12天」「薬師12神将」の一人です。仏教では、ブッダの教えを支持し、広めた従者の一人で、修行者の守護者とされました。経典では「華厳経」「法華経」などに登場します。月天は、単独で祀られることがほとんどありません。
 一説では、アスラだとされています。アスラとは、戦いを好む鬼神のことです。その首領は、ヴァルナとされています。ヴァルナ「水天」は、天則「リタ」を司る神です。月天とは、類似するとされました。なぜなら、月天も、天則「真実」を語る者とされるからです。そのことから、月天は「生命のリズム」「自然の循環」「周期」「変化」「知恵」「安らぎ」「静穏」などを象徴するとされています。その反面、多くの天女を侍らすという女好きでもありました。また、移り気で、浮気性だともされています。時には、聖仙ゴウタマの妻を誘惑し、靴を投げつけられたこともありました。

【チャンドラ】
 月天は、月と光の神「チャンドラ」と同一視されています。そのため、月の神、または月の化身とされました。「月明天子」「月宮天子」「名明天子」などの別名があるのは、そのためです。月は、インドでは星々の守護者や主とされています。または、満ち欠けを繰り返すことから、天界の門とされました。
 月天は、銀色をしています。その住まいは、月宮殿です。乗り物は、3羽のガチョウとされています。または、そのガチョウに引かせた三輪の戦車です。月天は「半月杖」「月の輪」「月珠」「白蓮華」「水瓶」「赤旗」などを持ちます。三日月型の半月杖「はんげつじょう」や月の輪「チャクラ」は、月の象徴です。月珠は、夜の闇を照らすものとされています。インドでも、月には、ウサギがいるとされ、月珠によく描かれました。「白蓮華」は「知恵」の、水瓶は「冷静」や「静寂」の象徴です。
 仏教では、月の清涼さが、煩悩の熱を除くとされています。神仏習合では、月天の本地仏「化身」は、勢至菩薩とされました。なぜなら、勢至菩薩も月と関連があるからです。

【ソーマ】

 インドの神話では、月は、ソーマが詰った神々の酒盃「酒の器」とされています。ソーマとは、神々が好む酒、または不老不死の霊薬のことです。インドでは、月が満ち欠けするのは、神々がソーマを飲むからだとされました。ソーマは、ゾロアスター教の神酒ハマオとは、同起源とされています。もともとは、アーリア人が、祭祀の時に供物した酒のことです。それがやがて神格化されました。そのため、月天をソーマとする場合もあります。一人の神としては、ギリシャ神話のディオニソスに近い存在とされました。ソーマを飲めば、寿命を延ばしたり、力を得られるとされています。特にインドラが好み、悪魔を退治する時に、それを飲みました。そのため、ソーマは、神々の父や王者と呼ばれることもあります。
 また、ソーマは、神々と交信するために用いられました。武人には、勇気を、詩人には、詩的霊感「インスピレーション」を与えるとされています。詩人は、諸神にソーマを捧げ、天啓を得ようとしました。
 ソーマとは、もともとはある植物の名前です。そのため、その植物の液汁を発酵させて作った酒もソーマと呼ばれました。または「絞る」という動詞が名前の由来とされています。ソーマは、ヴェーダの祭祀で用いられました。それには、幻覚や興奮作用があり、祭主は、よく恍惚状態になったとされています。