【火天】
 火天は、仏教の「12天」「8方天」の一人で、東南の守護者です。サンスクリット語では、阿耆尼「アグニ」と言います。アグニは、リグヴェーダでは、インドラについで多くの讃歌が捧げられました。リグヴェーダとは、古代インドの神々の賛歌集のことです。ヴェーダ時代、アグニは、主要な神の一人で、インドラ、ヴァルナと共にヴェーダ3神に数えられています。しかし、ヒンドゥー教の時代になると、その地位は下がりました。アグニの誕生には、諸説あります。例えば「造物主プラジャーパティ」「ブラフマーの蓮華」「原人プルシャの口」「天上の水」から生まれたなどです。ディヤウスとプリティヴィーの息子とする場合は、誕生後すぐに両親を食い殺したとされています。

 アグニは、火の神様です。痩身で老仙人のような姿だったので「火仙人」とも呼ばれました。その容姿は、ぼうぼうの赤い髪に「4の腕」「炎の歯」「3本の脚」「7枚の舌」が特徴です。服装は「炎の衣」を着て「果物の冠」を被っています。持ち物は「仙杖」「水瓶」「炎の槍」「三角壇」などです。三角壇の三角は、燃え盛る火を表しています。そのため、火の神アグニの象徴とされました。アグニの乗り物は、煙の旗印に、7つの風を車輪に付けた戦車です。その戦車を赤馬に引かせていました。または「牡羊」「水牛」「山羊」などを乗り物としています。


【火】

 アグニとは、火を意味する一般名詞です。別名を「ヴィシュヴァーナラ」と言います。ヴィシュヴァーナラとは「全ての人々に属する者」という意味です。アグニには、三界に満ちる普遍の火として、あらゆる神々と人間を仲介する役割がありました。天上では「太陽」、中空では「稲妻」として存在するとされています。地上では「祭火」として「炉」や「台所の竈門」などの金属の城に住むとされました。火は、あらゆるものを焼き尽くすので、食べることに例えられます。人間の体内では、アグニは、消化作用として存在するとされました。アグニは、消えることがない火のように不死だとされています。


【祭式の主】
 アグニは、祭式の主催者です。祭火に投じられた供物を焼くことによって味うとされています。
供物の中で、特にアグニの好物だったのがバターです。アグニは、主に祭式などを執り行う僧侶階級から崇拝されていました。その僧侶階級をバラモンと言います。バラモンは、アグニを息として、瞑想するとされました。もともとアーリア人には、大地を一度焼き尽くすことで、その地を浄化するという考え方があったとされています。アーリア人とは、インド人やペルシャ「イラン」人のことです。ペルシャには、ゾロアスター教という火を崇拝する宗教がありました。ゾロアスター教では、火は、悪魔や罪などの不浄なものを浄化するものとされています。アグニの起源も、アーリア人の拝火信仰です。仏教では、火天「アグニ」が煩悩を焼くとされています。火天は、知恵の光を発し「無知」や「迷い」の闇を照らし、万物を知る者とされました。