【火迦具土神】

 火迦具土神「ひのかぐつちのかみ」は、輝く火の神とされています。迦具「カグ」が、燃え上がる炎の輝きのことで、土「ツチ」が、霊力のことです。人の営みは、火よって、寒さをしのぎ、食生活を豊かにしてきました。そのため、火は、文明の象徴とされています。火は、人間社会を発展させてきたので、神聖なものとされました。ただし、一方では、火には、火事や戦争など破壊的な側面もあります。宗教的には、罪や穢れを清める神聖なものとされました。火が、古い自分を消滅させ、新たな自分へと生まれ変わらせるものだからです。火迦具土神は、イザナミとイザナギの子として生まれました。父親がイザナギで、母親がイザナミです。しかし、イザナミは、火迦具土神を出産した時、火傷を負ってなくなりました。

【十拳剣】
 イザナギは、イザナミが殺されたことに怒って、十拳剣「とつかのつるぎ」で、火迦具土神の首を切り落としました。火迦具土神を殺した時、その血から生まれたのが、武甕槌「タケミカヅチ」などの神々です。そのため、十拳剣は「神産み」と「神殺し」という二つの側面を持っています。十拳とは、拳が10個分の長さという意味です。別名を天之尾羽張「アメノオハバリ」と言います。剣の形が、鳥の尾羽のようだったので、そう名付けられました。天之尾羽張は、剣でありながら神だとされています。十拳剣は、スサノオの八岐大蛇退治に使われました。スサノオが、八岐大蛇の尾を切った時、そこから出てきたのが「草薙の剣」です。

 草薙の剣は、天叢雲剣とも言います。天叢雲剣「あまのむらくものつるぎ」とは、八岐大蛇の頭の上にいつも雲がかかっていたことから、そう名付けられました。草薙の剣は、天皇家の三種の神器の一つとされています。三種の神器は、天皇の正当性を証明するためのものです。草薙の剣は、天皇家の持つ武力の象徴だとされています。熱田神宮にあるのが本体が、皇居にあるのが形代です。

【秋葉神社】
 火迦具土神は、秋葉神社や愛宕神社に祀られたので「愛宕さま」や「秋葉さま」と呼ばれました。秋葉神社は、全国に500社以上あります。その総本社は、静岡県浜松市にある「秋葉山本宮秋葉神社」です。秋葉山本宮秋葉神社「あきはさんほんぐうあきはじんじゃ」は、秋葉山を神体山としています。

 火迦具土神は、火の神です。そのため「窯業」「鍛治屋」「料理人」など、火を扱う業者から高い崇敬を受けました。窯業「ようぎょう」とは、焼き物など窯「かま」を使う業種のことです。火迦具土神は、神仏習合で、秋葉大権現とされました。神仏習合とは、日本の神と仏教の仏を融合することです。


【愛宕神社】
 愛宕神社は、全国に900社ほどあります。その総本社は、京都の愛宕山の頂上に鎮座してる愛宕神社です。愛宕神社は、和気清麻呂が中興しました。和気清麻呂は、奈良後期から、平安時代の初期に活躍した貴族です。道鏡から、天皇家を守ったので護国神とされています。護国神とは、国を守るために死んで神となった者のことです。和気清麻呂は、猪に助けられました。そのため、愛宕神社では、猪を眷属としています。眷属とは、神の使いのことです。

 愛宕山は、山伏が修行をする山岳信仰の霊場とされています。その山岳信仰と修験道が融合して生まれたのが「愛宕権現」という神です。愛宕権現は、防火の守護神とされています。そのため、愛宕神社には、火の用心の護符が置かれました。愛宕権現は、天狗の姿をしているとされています。そこから、愛宕神社には、天狗の総大将「愛宕権現太郎坊」が祀られてました。