手筈は整っている。


そう言ったのはどの選手だろう。


ホワイトボードのマグネットをいじりながら監督は思い出せずにいた。


酒の席だったし、かなり気分が高揚していた。


武田曰く、「超ハイな状態」だったのだ。


致し方ないと考えるのが妥当だろう。


にしても、その選手はすでに準備を完了しているのだ。


監督の私を差し置いて。


まあ、一言私に耳打ちしただけでもよしとしようではないか。


今日は七夕である。


選手は笹の木を用意し、短冊に願いを書き、枝に結びつける。


庭の中央で井原が太い笹の木を振り回しておどける。


「そうそう落合。じゃあ、これは。ブッブー。


駒田でした。


次は誰でも分かるよ、はい、そうブライアント」


と歴代野球選手のバッティングフォームを真似している。


律儀にジャージの裾をつぼめてソックスに入れて。

「三浦さん、今日のコースはどうします。


筋肉トレーニングか柔軟体操か、それともメンタル・・・」


「メンタルで」


三浦は中田の方を見ずに即答した。