女の子は、浮いた話がお好き。それは私達が通う女子校ともなれば、そんな空気は色濃くなる。特にスポーツが出来たり、容姿が良かったりすると、もてはやされることもしばしば。

「今日の森田さんみた!?」

「端正な顔立ちと身長の対比が尊すぎる...」

今日も隣のクラスにいる私の幼なじみは注目の的で、本人は否定してるけど少なくとも私のクラスでは王子様扱いだ。でもなんでだろう、今日は心がざわざわしている。


「...の、保乃」

「え、あ、夏鈴ちゃん。どしたん?」

「おべんとう口についてんで」


夏鈴ちゃんの声で現実に引き戻される。ぼーっとしていたらしく、確かに夏鈴ちゃんの言う通り口元にはご飯粒がついていた。悩み事?と心配されたけど、保乃は大丈夫やで!と返しておいた。


「まぁ、悩んでることはおおかたひかるのことやろ?」

「うーん、どうなんやろ...でも、確かにひいちゃんのこと、かな」

「あ、図星やったんや。昨日の保乃の様子からして、昨日何かあったんやろ」

「!?あ、うん...そうやわ」


ほんとに夏鈴ちゃんはエスパーみたいやと思った。あと、絶対私の行ったこと間違って理解してると思った、と夏鈴ちゃんはぶつぶつ言っていたが、詳しいことは教えてはくれなかった。



ざわざわの正体探しは頭の隅に追いやって部活をやり遂げ、クタクタのまま家に帰ると、リビングでお母さんが誰かと話してる声が聞こえてきた。


「ただいま〜」

「あら、保乃お帰り。ひかるちゃん来とるで」 

「お、おかえり...」


ひいちゃんのお家はたまに全員が不在の時があり、その時は私のおうちでお泊まりする。いつもはひいちゃんと一緒にいられるのが嬉しいだけなのに、今日は何故か心がぽわぽわして浮き足立っているようだった。

ご飯を食べて、お風呂から上がったひいちゃんが2階にある私の部屋まで上がってきた。小さいほっぺたが赤くなって、毛先も少し濡れている。それがなんだか可愛くて、ドライヤーを引っ張り出し少し開けた足の間をぽんぽんと叩いた

「ひいちゃんおいで?髪の毛乾かすよ」

ひいちゃんはこくりと頷くと、大人しく足の間に収まった。髪に指を通すとさらさらとして気持ちいい。そんなことを考えている間に髪の毛は完全に乾ききって、私は髪からそっと手を離した。





「保乃ちゃん」

同じベッドで眠る好きな人の名前をつぶやく。寝てるのを確認してから名前を呼ぶなんて自分でも意気地が無いとは思うけど、普段はどうしても気恥しさが勝ってしまう。

「保乃ちゃん」

もう一度その名前を口にする。そんな自分がなんだか情けないやら恥ずかしいやら感情がごちゃごちゃになった挙句、田村の腕のなかに入りこんだ。田村はうーん...と唸ると、私の頭や肩を抱え込んでポンポンしだした。

私は6人家族の家に生まれたからか、寂しいのが苦手だった。だから昔の私は、田村の家でお泊まりしても夜は泣いていた。それに気づいた田村は、こうやって抱きしめて肩や背中をポンポンと叩くようになった。今はもうやっていないはずなのに、田村の体は一連の流れとして覚えている。その事実に何だか顔が赤くなった。




夢を見た。小さい頃の私と、ひいちゃんの夢。
ほのちゃん!と私を呼ぶ声が聞こえる。
でも、差がどんどんできていく。身長だけじゃなくて、心の距離まで離れていくような気がしてしまう。
「ひいちゃん!ひいちゃん!」
小さい私は必死に呼ぶけど、ひいちゃんは振り返らない。どんどん暗闇の中に消えていく。


「ひいちゃっ...」


ハッと目を覚ます。カーテンの隙間からは青白い光が差し込み、枕元の時計は5時前を指していた。
胸元に小さな重さを感じ、見るとひいちゃんが私の肩に顔を埋めて寝ていた。寝癖がはねていて、私が動いたからかぎゅーっと顔をしかめていた。ふふっと小さな笑みがこぼれる。
そんなひいちゃんを見て、私は心にある感情が素直に口からこぼれ落ちた。


「保乃、ひいちゃんを守りたい...」