放課後、校舎裏
告白をするシチュエーションとして定番すぎるが、今まさにそれが行われようとしていた。
「田村さん!つ、付き合ってください!」
告白する名前も知らない男子生徒の声と手は震えていて、本気で好きなのがわかるな、と校舎の2階から眺めていた。でも、田村の答えはいつもひとつだった。
「ありがとう。でも、保乃はいい友達のままでいたいな…」
何故だろう。どこか寂しそうに笑うその顔に、心が酷く締め付けられる気がするのは。
目を開けると、田村が私を覗き込んでいた。
「ぉあ…」
「おはようひいちゃん、起きる時間やで〜」
「ほのちゃ…まだねるのぉ…」
「寝ない!もぉ〜!」
田村のよいしょというかけ声と同時に体がふわっと浮く。私はずっと前からこうして、ほぼ毎日食卓まで連れて行かれる。(頼んだわけじゃないけどね…!)
そして今日は田村家の朝食の匂いで覚醒して、ママさんからは可愛いなぁなんてからかわれてしまった。
朝の準備も済ませ、2人で家を出る。今日はどうしても寝癖が取れなくて、田村に半ば強引にヘアピンをつけさせられた。普段目は前髪で少し隠れるから、視界が広いのがなんだか変な感じがした。
「ひいちゃん大丈夫?見えずらくない?」
私は気づいてしまった。覗き込む田村の顔が、いつもよりはっきり鮮明に見えることに。
いや、大丈夫。なんてことはない。そんな前髪が少し変わったくらいで私が動揺することなんて…
「はぇっ!?あ、だいじょ、ぶ」
全然ダメだった…!動揺100%だこれ…!
なんとか弁解しようとしたところで、学校に到着してしまった。
「あれ、なにこれ…?」
田村は部活棟に行くらしく、同じタイミングで登校してきた天と下駄箱に行くと、私のところに手紙らしきものがはいっていた。
「…これ、"前みたい"なのじゃないよね?」
「大丈夫やでひかる。それなら私が守るし、それに普通のラブレターに見えるけど?」
「ら、らら、ラブレター!?私に!?」
存在自体は知っていたけど、私とは無縁のものだと思っていた。そんな代物が実際目の前にあるとなると、どうしていいか分からなくなる。
固まっているうちに、後ろから名前を呼ぶ声が聞こえて振り返ると夏鈴がいた。
「おはよひかる。その手のやつは?」
「かりーん、聞いてよこの子ったらラブレターもらってるのよ〜 」
「そうなん?まぁええんちゃう?」
夏鈴は冷静に言い放つと、すたすたと歩き始めた。
その後気づいたように振り返り、何かあったら言うんだよとだけ伝えてくる。そんな夏鈴の優しさに心が暖かくなった。
「それで?何書いてあったん?」
教室でこっそり手紙を読んでいると、後ろから天に話しかけられて肩がびくりと震える。
送り主は同級生の男子、手紙は予想通りラブレターで、1年生から好きだったことや横顔が好き?なことが書かれていた。あとは
「今日放課後、校舎裏来てって…!」
今朝の夢は、(一部は違えど)正夢になってしまった。
「保乃…」
「ん?どしたん?」
「あんまりゆっくりしてると、ひかる取られるで?」
教室に行くと、開口一番夏鈴ちゃんが不思議なことを言ってきた。
ひいちゃんを取られる…ってなに?なぜか分からないけど、心がザワザワしている、気がする。
放課後、校舎裏
告白をするシチュエーションとして定番すぎるが、今まさにそれが行われようとしていた。
「森田さん、ずっと好きでした。付き合ってください」
放課後、校舎裏に行くと同級生の男の子が待っていた。覚悟を決めていたのか、彼は私の方を真っ直ぐに見て告白した。色んな気持ちがごちゃ混ぜになる中、何故か真っ先に田村の顔が浮かんだ。
「えっとあの、ありがとう、ございます。でも今は付き合うとかは…考えてなくて…」
「やっぱり田村さんですか?」
田村の名前が出た瞬間、自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
「ははっ、やっぱり。そうなんじゃないかと思ってました。」
彼はふふっと爽やかな笑みを浮かべると、森田さんも伝えないと後悔しちゃいますよ、と言って去っていった。
「森田さん、ずっと好きでした」
日直の仕事が終わり、校舎裏に面している廊下を歩いている時そんな声が聞こえてきた。幼なじみの名前が聞こえた気がして、自分の耳を疑った。
窓から覗くと、確かにあれはひいちゃんだ。ひいちゃん意外とモテるし、高校生なら恋のひとつやふたつするかぁ!
なんて考える度、頭が熱くなって自分の鼓動しか聞こえなくなる。
気づいたら一心不乱に走り出していた。
噛み締めた歯の隙間からは呼吸とも嗚咽とも分からない声が漏れだして、視界は滲んでいた。
「もう、なんでなん!?」
うまくコントロールできない自分自身に苛立ち、つい声を出してしまった。
いっぱいいっぱいのまま屋上に行き、ごろんと寝転がる。落ち着いていく呼吸と同時に、頭の整理もはじまる。
「保乃、ひいちゃんが好きなん…?」
元々わかっていた気がする。けど、わざと気付かないふりをしていたことと直面した。自分の行為を幼なじみに向ける愛情とかいう言葉で片付けてきたけど、そうじゃなかった。
好き、を自覚した瞬間、さっきとは違う理由で顔が赤くなっていくのを感じた。