遅れてすいません第3話です
今回保乃ちゃん目線多めです「ひぃちゃん、おはよ。今日もいい天気やで」
「おべんと、ほっぺについてんで?ほら…」
「ひぃちゃん抜けてるから、心配やなぁ」
田村への気持ちに気づき始めてから、キラキラした笑顔も直視出来なくなっていた。顔を見ると、どうしてもつっけんどんな態度をとってしまう。こんな自分が嫌で、深いため息をついてしまう。
変わりたいなぁ…と素直に思った。
───
「ねぇ夏鈴ちゃん、保乃ひぃちゃんに嫌われたかもしれん…」
「え、何したん」
「わからん…これっぽっちも心当たりあらへんのよ」
わたくし田村保乃は本当に悩んでいるのです。本当に大好きで大切な、幼なじみのひぃちゃんこと森田ひかるちゃんが最近目を合わせてくれないのです。
時期的にはひぃちゃんの悲惨な事件があった後くらいから。抱きしめるとそっぽ向くし、撫でようとするとビクつかせちゃうし、朝起こしても起きないし(これはいつものことやけど)…
理由を聞いても答えてくれないし、保乃はこれからどうしていいのか分からないでいる。
「保乃ってさ、意外とそういうとこ鈍感よね。普通、一連の流れ的にわかると思うんやけど?」
「一連の…流れ…?」
それだけ言うと夏鈴ちゃんはふらっと立ち上がった。説明して!と言っても、自分で考えなと言われるだけだった。本当にどういうことなんやろ…もしかして…
───
「んで、要するに幼なじみの保乃に恋しちゃった訳ね?」
「ばっ、天声でかい!ていうか、恋とかそういうのじゃ…」
「ここまで来て逃げれると思うてへんよな、ひかる?」
天は私の言い表せない感情を的確に当ててくる。自分の中ではわかってるはずなのに、肯定するのが、怖い。それを天は見透かしてくるようだった。
私が言葉に詰まっていると、影がゆらりと近づいてくる。ふと見上げると、隣のクラスの夏鈴が私をじっと見つめていた。
「…やっぱりな」
「そうなんよ、保乃の方も大概やろ?」
「保乃は…ヒントは出したけど、なんか変な捉え方してそうやな」
主語を一切言わず、示し合わせたかのように話し出す。私1人だけ何もわからずにいると、夏鈴はまた私の方を見た。
「ひかる、保乃のこと好きなんやろ?」
私はびっくりして椅子から転げ落ち、喉の奥から変な声を漏らした。なんで夏鈴が知ってるのとか、なんでそんなに当たり前みたいに聞いてくるのとか、色んな疑問はあったけど咄嗟に出てきた言葉は
「田村はこのこと、知ってるの…?」
「…ひかるの方が私たちより知っとるはずちゃうん?保乃の恋愛絡みの鈍さは」
夏鈴の言う通りだ。私が一番田村の鈍さを知ってる。
田村は小さい時からモテてはいたが、中学校に上がるとそれは段違いになった。本当にクラスで田村を嫌う人なんて一人もいなくて、男女関係なく田村に惹かれた。
告白されている所も幾度となく見てきたが、彼女は他者から向けられる恋愛感情に鈍かった。大抵好意を向けられていることをそこで知って、おわり。友達でいたいと告げるだけだった。
「そうだった、田村はそういうやつだった」
「けど、今この学校で1番保乃に好意持たれてるのひかるやろうけどね…」ボソッ
「夏鈴今なんて?」
夏鈴が何を言ったのかは聴き逃したが、それを聞こうとするとパタパタという足音が聞こえてきた。普段は気にもならないのに、何故かその音だけ大きく響いているようだった。
「夏鈴ちゃん、そろそろ昼休みおわるで〜…あれ、ひぃちゃんの机居るの珍しいなぁ」
「あ、保乃〜わざわざ夏鈴迎え来たの?」
天と楽しげに話す田村を、私は直視できなかった。目の前に田村がいて、少しでも隙を見せたら感情が溢れ出しそうで。
俯いていると頭に何かが乗る感覚があった。ふと上を見上げると、少し心配そうな顔で頭に手を置き、田村がこっちを見ていた。
「ひぃちゃん大丈夫?どっか痛い…?」
「大丈夫だよ田村、ありが…」
ありがとうといい切る前に抱きしめられた。暖かくて、柔らかくて、この感覚が大好…きでも嫌いでもないんだけど。素直に頭を預けると、私よりも大きな手で撫でられる。すごい気持ちい…い訳じゃないんだけど。
「保乃、イチャついてるとこ悪いんだけどもうそろ授業始まんで」
「やっばあと2分しかないやん!夏鈴ちゃん帰るで!」
田村はぱっと離れ、小さい声で"また後でね"と伝えてきた。こういう所、田村のこういう所が私を狂わせる。仕草ひとつにも意識せずにはいられなくなって、ドキドキしてしまう。
天はにやにやと私を見つめているけど、下手に言葉を交わすのが嫌で次の授業の準備を始めた。
───
部活がない日はひぃちゃんと帰る。小学校からずっとそう。背が離れどんどんと目線が合わなくなっていっても、歩幅を合わそうとしてくれる君が可愛くてかわいくて仕方ない。
でもそんな私の可愛い幼なじみは、最近1歩後ろを歩いている。
「…てなことがあってな?」
「うん…いいね」
ひぃちゃんは最近、やっぱり保乃を避ける節がある。今も目が合って、逸らされた。
やっぱり、あの事かな…… 保乃は意を決して口を開いた。
「ひぃちゃん、保乃見ると怖いこと思い出す?」
「え、なん…何の事?」
「ほら、体育倉庫の1件で。保乃見ると、思い出しちゃうのかなって。だから接触とかも辛くなっちゃうかなとか、思って。」
「そんなことない!私は…わたしは、うれしかったよ」
感極まって涙目になってしまったひぃちゃんを、とりあえず近くにあった小さな公園のベンチに座らせる。顔を見られたくないのか、私の首元に小さな頭を置いた。よしよしと背中をさすると、嗚咽する音が微かに聞こえてきた。
「ひぃちゃん、ゆっくりでええで。話しづらかったら話さんでええし」
「ぐすっ…わたし、ほのちゃん、こわくないよ…さわれないのは、はずかしくて…」
「保乃に触られるのが恥ずかしい?」
ひぃちゃんは頭がいっぱいいっぱいになったりすると、保乃を「保乃ちゃん」って呼ぶ。だから今も、色々考えてるはずだ。言葉につまりながら、ひぃちゃんは少しづつ言葉を紡いでいく。
「わかんない、なにがはずかしいのか…さいきん、ずっとわかんない。じぶんのきもちも。」
「そっか。保乃、あんまり触らへん方がいい?」
触っていいよと言えないからか、ごりごりと頭を擦り付けてきゅーっと抱きしめてきた。小さい頃からやってる、ひぃちゃんなりの可愛すぎる甘え方。私はわかったよ、の意味を込めて頭を撫でた。
落ち着いてきたのか、肩から顔をぱっと離した。目はまだ赤かったけど、恥ずかしいのか目を合わせてはくれなかった。その代わりに、今日は手をひぃちゃんから繋いでくれた。
なんでだろう。今日は心臓が嫌にうるさい。