地下アイドルとドルオタのお話
※脱退表記があります。ご注意ください。





きらきらひかる一番星、もしもそれが自分の手元に堕ちてきたとしたら人はどうするのだろう。私は…


「ひかるちゃん、今日も可愛かったで!」

「ありがとうほのちゃ〜ん!ほのちゃんに褒められるのがいっちばん嬉しい!」

「尊すぎる…さすが自慢の推し…」



目の前でにこにこと笑みを浮かべるこの子はひかるちゃん。地下アイドルグループ『さくら坂』のセンターを務めている。小さいながら鬼気迫るパフォーマンスが魅力であり、最近様々なところで取り上げられている。

そんなひかるちゃんのファン、もといオタクを初めてはや2年。出会ったのは社会人1年目で心が荒みきっていたときだった。街中でフライヤーを配っていた新人アイドルのひかるちゃん(胸元の名札にそう書いてあった)に、いわゆる一目惚れをしてしまった。


「お姉さん、地下アイドルとか興味ないですか?」

「地下アイドル自体は知ってるけど、ライブとかは見たこと無いです...」

「じゃあ、私たちのライブ見てみませんか?...って言っても、今月結成されたばっかりなんですけどね」

そんなひかるちゃんの笑顔に押されライブ会場に足を運んだ。その日ライブを見ていたのは私含めて2人だけだったが、さくら坂のみんなはアイドルとして全力でパフォーマンスをしてくれた。私はそこでも無意識にひかるちゃんを目で追っていた。

ライブ後の物販で何となくCDを1枚購入しようとした時に、スタッフのお姉さんからチェキをおすすめされた。なんとなく勧められるままチェキ券を購入すると、お姉さんにひかるちゃんの前まで案内された。


「お姉さん!来てくれてありがとうございます!フライヤー見てきてくださったんですよね」

「え、私の事覚えてるの?」

「もちろんですよ、私お姉さん美人だから印象残ってて。まさかライブ見てくれて、チェキまで撮ってもらえるなんて思ってませんでした」

「えっと、ひかるちゃんだっけ。ライブほんとにすごかった。新人アイドルとは思えなかったよ。」

「お姉さんずっと私見てくれてましたもんね。私、お姉さんに見てもらったからいつも以上に頑張っちゃいました」

そう言ってにこにこ笑うひかるちゃんはめちゃくちゃ可愛くて、本格的にハートを撃ち抜かれた。初めて撮ったチェキはひかるちゃんの指定で、2人でハートマークを作った。チェキにコメントを書いてくれるシステムで、ひかるちゃんは私を見てニヤッと笑うと、でかでかと"ひかるのファン1号!"と書いた。


それから2年。私はあの日からゴリゴリのアイドルオタクになり、いつしかひかるTOに成り上がっていた。
ホワイト企業で稼ぎはあるのに、ドルオタ以外に趣味がない私はどっぷりひかるちゃん沼に傾倒していき、いつしかひかるちゃんファンだけでなく他のメンバーのファンからも「姐さん」と呼ばれるまでになってしまった。



「保乃ちゃん、また姐さんって言われてたね」

「なんで姐さんって言われんねやろ…」

「姐さんっぽいからじゃない?姉御肌だし。私もほの姐さんって呼ぼうかなぁ〜」

「もうひかるちゃんまで!やめてぇや〜」


なんだかんだ2年間毎週通っていると、ひかるちゃんとも打ち解けて、チェキ前の打ち合わせで日常会話をするくらいになった。こんなやりとりも楽しくて仕方なかった。

そんなある日、さくら坂が関東ローカルのテレビに出させてもらえることになった。オタクはもちろん、さくら坂のメンバー達も喜んでいて、さくら坂が世に知られ始めていることに喜びを感じていた。

けど、収録日と思われる日から明らかにみんなの表情が暗くなった。それはひかるちゃんも例外じゃなくて、笑顔がぎこちなくなり俯きがちになってしまった。会場でもずっと不穏な空気が流れていたが、その理由は2週間後の放送日で明らかになった。


「え…?これ、ほぼひかるちゃんしか喋らせてもらってない?」


それは明らかな贔屓に見えた。コーナー自体は10分も無かったが、喋っているのはほとんどひかるちゃん。推しの私でも異常なことだって分かってしまう。
急いでスマホのSNSを開くと、タイムラインにはさくら坂ファンの抗議の声や、不平不満が溢れていた。

『ひかるだけじゃん、なにこれ…俺の推しは引き立て役なの?』
『えこひいきされてんのバレバレ。今日ひかるだけで良かったんじゃねぇの』
『ふざけんな。いくら1番人気だからって、あまりにも酷すぎる』
『運営もひかるもやってんなこれ。ワンチャン枕したとか?』

ひかるちゃんは悪くないのに、標的の矢印はテレビではなく彼女に向いてしまったんだ。そこからはもう悲惨だった。運営からの謝罪文も、他のメンバーからのフォローも、ひかるちゃんからのお詫びでさえ燃え上がった炎の前では無意味だと思い知らされる。そして、私が一番恐れていたことがおきてしまった。

【ひかる脱退のお知らせ】
 
わたしはこの一文の前に目の前が真っ白になり、へたりこんだ。2年間の思い出が一気に崩れる音がする。現実逃避をしたくて本人のSNSに縋っても、『問題が発生しました』と無慈悲に告げるだけだった。