また、長いトンネルに入り込んでしまった君.


下を向いてそこから一歩も動けなくなった今、僕は君に何が言えるのだろう.


振り向けば歩いてきた暗闇.


前を向けば遠い遠い小さな明かり.


そこに立ち尽くす気力すらなくなって、


ぺたりと地面に座り込んでも、


体を温めてくれる毛布すらない.


自分の存在を、今いる場所を指し示す明かりすらない.


好きでそんなところに迷い込んだわけではないのに、


自分自身の影にすら「情けない」と責め立てられる.


歩き続けてきた見えない周りの声に


「だらしない」と責め続けられる.


どんなに頑張って立ち上がろうとしても、


上下すら解らなくなったその空間に、


ただ存在し続けることが、どれだけ辛いか、どれだけ苦痛か.


これまで出来た何気ないことが、どれだけ遠い世界の出来事になっているか.


傍をすりむける人々は「自分は大丈夫」そう言ってただ通り過ぎるだけ.



何も出来ないこの僕に力があれば.


いっそ、この暗闇を取り除ければ.


ともに暗闇の中で佇むことができれば.


歩いてきた暗闇を、ともに引き返す勇気があれば.




考えれば考えるほど、自分が何も出来ない、


とても小さな存在だと気付く.


だけど、僕は下を向かない.


決して「引き返そう」とは言わない.


無口で、愛想が無くて、強引でも


君をそっと抱きかかえて歩き出す.



たとえ、裸足の足に血が流れても、


暗闇で目がくらんでも、


目指すべき方向がわからなくなっても.




出来ることはそれだけ.


出来ることはそれだけ.



「いつか」それは希望の言葉.


ただ、座り込むことしか出来なかったあの日の僕が呟いた、


希望の言葉.



そしてそれを今呟く君には、かけがえの無い希望の言葉.



だけど、いつか必ず、立ち上がって前に進む力になる、


希望の言葉.




ともに立ち上がろう.


まだまだ光は遠くても.



ともに歩こう.


少しでも僕が今の君の支えになるのなら.



ゆっくりと見渡してみるといい、


真っ暗な暗闇だって、表情を持った壁だって気付ける.



笑って、日の光の下で君に会えるまで、


いつまでだって傍にいる.


いつまでだって傍にいる.




ゆっくりでいい、立ち上がって、ともに歩こう.

高速道路で愛車を走らせていた午前2時.


この時間に運転することは解っていたから、部屋を出るまではゆっくりと休んでいた.


そのつもりだった.


事実、夕方5時半から、ベッドに篭り十分に眠った後で、


眠気覚ましのコーヒーを流し込んで、君を送り届けるところだった.




高速に乗って早2時間、隣の君は疲れて寝息を立てている.


上り坂の途中に有るトンネルをくぐるまでは、君の寝息さえ聞こえていた.


デッキから流れてくるジャズを絞って、それなりに楽しんでいたつもりだ.


この雰囲気も、なによりも速度に反比例してゆっくりと流れる時間を.



だけど、暗闇の中のその空間に、すべてはかき消されてしまった.


ガイド灯の無い区間.


存在するはずの無いその区間.

明かりの無い高速道路なんて有るはずが無いんだ.




すぐに異常だってことに気付いたよ.


指し示す道は、ただセンターラインしかなかったから.



高速道路の隔壁も、対向車線すらない、暗闇の一本道だった.




そこで不意に気付いたんだ、右手にこもる力に.


ゆっくりとだけど確実に、少しずつ強くなっていく、右手を下に下げようとする


計り知れない力.






インターを降り停車した僕の右手には、赤黒いあざがしばらく消えずに残っていた.

疾走って、疾走って、たどり着いた先は冷たいアスファルトの上.


途方も無く、見上げた空は星が輝くこともない、暗い空.


投げ出されて、痛みを背負って、動けない自分を包み込むのはうるさいくらいの静寂.


生きている実感が欲しくて、狂ったように前へ前へと進んでいた、さっきまでが昨日のことの様.


いま、目が離せなくなっている空には星の瞬きすらも無い.


ぬくもりの感じられない視界で浮かぶのは、あの日に君といた幻.


絶対に手に入れられない君.



ここに君を.


君のいた記憶を縫いとめて、暑く熱を持った肩を引き連れて、また相棒のバイクに火を入れる.


じっとそこで待っている、付いて来る日向を、また走らせる.


未完成で、自立することも無い影を引き連れて走り出す.


どうしようも無い感情に照らし合わせて、


どこへ行くあてもない自分自身を奮い立たせるように.



痛みで進む先が霞んでも、停まることはない.


ずっとそうして来たじゃないか.


今更、立ち止まる必要なんか無い.


感傷なんて.


振り切ったはずの思考に囚われる自分がいる.


振り切ったつもりなのはいつのことか.


滑稽で、緩む頬をぎゅっと内側からかみ締める.



何も忘れてなんかいやしない.


喜びも、愉悦も、怒りも、悲しみも、暖かさも.



すべて自分だと知って受け止められるのはいつだろう.


付いて来る日向にすべて預けて、安らかに眠る日を、


ただ、祈って走る続ける夜.




下弦の月が、深い山奥で笑った夜.