断章 地球に生きる者

 

「こんな日々じゃないと退屈だとでも?」

 

数数日前にしたことをすっかり忘れて

数日前に、偶然に発見する

プリンタの蓋を開けたら大事な大切な

身分証明書、パスポートとヴィザとが

二つながらに並んでいた

 

印刷した覚えがない、お得意の何かに取り紛れて

置きっぱなしにした

どんなにこれが大変なことが、命に関わることか

思い至って震えがきた

もし、この数日間に誰かが職務上あたしに提出を要請したら

あたしは堂々と、平気で「お待ちを」とか呟いて出しーー

ない! どう見てもない、そんなはずは。いつもいつも持ち歩いている、

体と一体になるほどに、ドイツでは致命傷である

 

忘れたか、落としたか、置き忘れたか、盗まれたか、

あたしはきっとそこで気絶するだろう、絶命するだろう

 

そんな危機を数日間というもの、回避してもらっていた

なんたる守護、なんたる強運、そこらでのたうち回りそうだった

安堵と恐怖で

 

そして翌日、外国人局に指紋を取りに出かけた

何も要求されず、もらったのはみなしヴィザの紙切れであった

恐怖と絶望の極みの日に撮影した泣きっ面の写真もコピーされている

その時は忘れもしない、有効でないヴィザ所有に怯えていた

法律違反だと思って

 

 

または

昨日のこと12月13日火曜日

いよいよ、日本への送金問題と対面する事態にまでこぎつけた

ただただ予期不安、ダークマターのようなものに包まれていた

それらを浄化しても追っつかない

そんな自分をも許せばよかった、少しは許していた?

 

マインツのH銀行支店で、斜川さんが(横川さんでもいいが)

「さ、これが息子さんへのうちにある預金の半額です」とか

送金票に書き出してくれた数字が、

帰宅して眺めていると全く納得できないのである

多すぎる これじゃ税金がかかる?

 

そもそも計算能力と短期記憶不在が相まって

支離滅裂になってしまう、それにはユーロと円の数え方のズレが

混乱に拍車をかけている、慣れるどころか

 

以前、マント氏が早めに送ってくれて喜んだ死亡日債権残高証明を

眺めていて、あ、と思い当たった!!

この書類を思い込みで理解していた、詳しく見ずに浅慮丸出しだった

 

それならこれは、と最後に送ってきた普通預金通帳記載書を

眺めていると、あ、裏にも印刷してある!!

この部分を浅慮から 見もせずにいた

そうか〜〜とゲンナリする 大ポカやってたんだ

 

しょげながらも、安定剤を飲んでぬくぬくとくるまり

でも今日もうまく帰ってこれてよかった、などと安定した気分でいた

 

突然、思い当たった、つまり

遺産裁判所に提出した財産リストに少ない額を申告したわけだ、

後は野となれ山となれ、みたいな感じだったが、

 

またもや法律違反である、国外退去だ、犯罪者だ

 

ガバッと起きる、とても寒い真夜中だがそんなこと言ってられない

斜川さんにはすでに、次の予約申請のメール出してあった

マント氏にも出すが、あるいは氏の何らかの落ち度が表に出る話かもしれない

と危惧して「この失敗は担当のニースナー女史に告白するべきでしょうね」

とのみ書いておいた

 

女史にもメールを打つ、便利な世界だ 真夜中に打っておく

おはようございますと。

起きてから9時前に電話してみる 幸いにもつながった

「誤解して、よく理解せずに金額を少なく書きました、まだ期日前なので訂正できますか」このメール文を読んで「メールに訂正事項を書いて送って」と早口で言う

 

あたしは舞い上がって「ありがとうございます、では良い朝を、私には悪い朝ですが」と冗談をかまして

助かったかもと思った

 

斜川さんからは、木曜日の予約が送ってきた

それから計算し直し、

失敗しながら、誤解をしながら、またそれを発見しながら

本当にこんな仕事をすべき頭ではない

 

息子も

仕事が忙しいので税理士を探す、と困っている

 

 

同時進行で

語学試験と同化教育試験とを探してみる

何ヶ月か授業を受けるのだ バスもろくに走ってないのに

この歳で、ホンマか?

 

この日

起きると外は銀世界であった もちろんマイナス気温

昨日も寒かったし晴れていた

マインツのクリスマスの市に遭遇したっけ

初めて楽しいと思った、生活に全く必要ないものばかりが

魂を込め、心血注いで作られた伝統と発明の粋に美しさを加えて

煌めいていた

何も食べず、小さな香料蝋燭を3つ、5ユーロで買った

 

夕食を済ませ、蝋燭を灯して

少し気持ちをゆったりさせようと思ったが

夕刻、ドアに遺産裁判所から手紙があった、違う名前の多分上位の人物

「ニースナー女史に遺言書遂行人認定書を要請したそうですが、遺書にそんなことは触れてありません、何に使うのですか」

 

そうか〜〜 ニースナー女史が出せますよと気軽に言うので頼んだが

亡夫のマックのアカウント消去をアップルに問い合わせたときに要求されたもの

まあ、事実を言うより他ない

 

今夜はもうのんびりと思っていたが

これに返事の手紙を書かねば、まさかメールでと

言うわけにはいかないような雰囲気だ

 

お疲れ様、あたしの頭、

純正錐子さん、手をつないでいてくださいよ。

神さんのあるかなきかの 永劫の 確かな息吹の波の中で

 

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1214 真実の世のごとすがし ふんはりと白銀ありて森閑とせり

頻繁に天使の助けあるに何故 腐心して生く些少の残り

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