菊はなびら

 

無条件の好意が菊の花束として

手渡されたので顔を突っ込む

菊らしい香りに包まれてみた

   白菊の

   はなびらが一つずつ、一つずつ、一つずつ、

   重なってふっくりとふくらんだ中へ

 

神の手作りのこの作品には

「ザ法則」から発する 花への愛と

あたし個人への愛が 繋がっていた

それが伝わってくるので

愛しくてありがたくて

また泣き虫、また嗚咽する

   一つずつ、はなびらが一つずつ、一つずつ、一つずつ、

   愛を紡いで、美しくも重なり合って

   まさに愛の織物 香り立つ

 

冷蔵庫は空っぽだけど、外は雨だけど

窓には雨粒ほどもない羽虫が六匹いるけど

 

まだ泣きながらも彼らの耳に叫んでみた

「いつまで居るのよ、もう冬よ!」

 

 

 

   ユーロ硬貨

 

肉屋のお上さん、仕事人間

焼いたお肉の塊を切ってもらおうと「2個ください」

「2枚ね」「あ、そうか 2枚」といい加減なあたし

ジャガイモのサラダを200グラム計っているのへ

「今日、寒いですね」

「冬が来るのよ」「ごもっとも」とぐうの音も出ないあたし

 

8ユーロ38ツェンス

小銭入れから小銭をザラッと流して

まず38ツェンスをとってもらおうと思ったら

素早く財布の中身を見た彼女「そのユーロ硬貨で8ユーロも頂戴」

列車の券を買うために

今週貯めておいたユーロを取られてしまった

でもあたしこのお上さん大好きなのよね

 

そういえば、駅でのこと

階段を下からやってきた30歳くらいの男

身なりは普通よりやや上等、青い瞳は真面目そう

しかし

「僕にユーロ硬貨をくれる?」

いきなりきた、せがむでも説明するでもない

「どうしてあなたにあげなきゃいけないわけ?」

「それはお宅の決めることです」「!!!」

 

あたしの右手には2ユーロ硬貨があった

理由はあるのだろう、あげちゃお

さっとあげるとさっと受け取った、ありがとうと言ったかどうか知らない

しばらくすると、パン屋の袋を抱えた姿が見えた

彼の来し方を想像しようとする

 

 

 

   13歳のシリアの少年


暖かいローストポークを抱えてポクポク歩いていると

追い越された、

細い男の子、背丈は同じくらい

あ、お隣の末っ子、13歳の

孫の友理と同い年、シリア人のママの自慢の息子

 

追い付いて「13歳の孫がいるのよ、もしドイツに来たらよろしくね、

ドイツ語教えてやってね」と言おうと思うけど

足が追いつかない どんどん離れていく

 

あれ? 家の前で曲がらない、違う子だったんだ

 

見送りながら、話しかけないでよかった、と玄関に近づくと

出てきた影が、あれ、あの子の顔だ!?

 

ちょっと頭がかき混ぜられた

「ハロー」と言い合うとき、少年の目を見つめた

何か言おうかと思いつつなおも見つめ続けた

いかにも善良そうな上品な眼差し

あたしいつもママさんに「あの子かわいらし〜」と言ってしまう

 

きっと、変な隣のおばあちゃんと思っただろう

今日は特にさ

でも会えてよかった

 

 

 

   古手の美容師

 

今日の「桟橋」美容院は混雑中

誰がこの猛髪を切るか 美容師数人が顔を見合わせている

 

え、まさかこの人が?

まさに恐れていた中年の(初老の)彼女が来た

何故っておデブでむすっと愛想なし

首の後ろを切る時も指示なし

あたしは自分で頭をうつむけて切りやすいように協力

 

恐る恐る「左は素直だけど、右側はいつもピンとはねるんです」

わかってるらしく「う〜ん、ここ大変よ難しい」

これまでの美容師には笑顔とお喋りがついていたけど

今回諦めて、鏡に映る人たちを観察してみる

 

ハ、と気が付く 彼女の両手が驚くほど美しいじゃない!

そこだけ若い、白くてツヤツヤシミひとつない! 宣伝文句みたく!

つい言ってしまった「あなたの手の美しいこと、どうしたら」

さすがに少し顔を崩して「日々の習慣ですね」それで終わり

 

髪を少しばかり一束にして、ねじり上げていく、ハサミの音をさせて

パラリと回転しながら髪が落ちてくる、なんだこれは!

「なんて技術なの!」とまた言ってしまった「初めてみたわ」

「技術なんていうほどじゃ」といなされる

 

最後に「ああこれで新しい人になりましたわ」と笑って見せると

彼女も笑った? その笑顔を覚えていない

「大変だった〜〜 ハサミが壊れるかと」と同僚に言ってる

 

支払う時、どさくさに紛れて じゃないけど

彼女にチップをあげ損なった

一期一会でしたね