潤くんとは小さい時から一緒で。
さすがに大人になったら別々になるであろうとは思っていたけど、それがこんなタイミングで来るなんて思っていなかった。
今まで当たり前だったものが、ガラリと変わる。
おーちゃんや翔ちゃん、まーくんが高校生になっても変わらなかった5人の関係が、きっとオレ達の受験を機に変わってしまう。
それが、怖い。
見通せない未来を、どうやって選べばいいんだろう。
いつも潤くんが侵入してくる窓から潤くんの部屋を覗いてみる。
カーテンが引かれたままのその部屋に、潤くんはいないって事だ。
「はぁ……」
ふと視線を落とすと、家の前を歩いてるおーちゃんを見つけた。
「おーちゃーん!どこ行くのー?!」
オレの声に反応したおーちゃんは顔を上げて、少し眩しそうにオレを見上げた。
「んふふ。ちょっと駅前までな。一緒に行くか?」
まだ全然外は暑い時間帯で、いつもだったら断ってしまうんだけど、このまま1人で部屋にいても浮上出来そうにない。
「ちょっと待ってて!」
そう言って、すぐにおーちゃんに合流した。
「どこ行くの?」
ビーサンをペタペタ鳴らしながら歩くおーちゃんの隣を、オレもその歩調に合わせて歩く。
「画材屋。絵の具が切れちった。」
ふにゃっとした笑顔で答えるおーちゃんは、いつもと変わらない。
その変わらない事が安心感をくれる。
「そっか。おーちゃん絵描くの好きだもんね。」
「もし、翔ちゃんと同じ学校だったら、こんな時間無かっただろうからなぁ。」
意外なおーちゃんの言葉に、ちょっとビックリした。
「おーちゃん、翔ちゃんと同じ高校行くつもりだったの?」
「先生からはすげぇ勧められたんだよ。でも、俺あんまり勉強好きじゃねぇし。
もっと自分の好きな事したかったから、今の高校にしたんだよ。」
お陰で、毎日楽しいぞ。って、やっぱりふにゃって感じに笑うおーちゃんの言葉に、ある意味衝撃を受けた。
「将来を考えて、って事じゃないの?」
オレは、どうしたってそれを考えてしまって高校を決められない。どうなりたいかなんて、全然わかんないから。
「将来も大事だけど、今も大事なんじゃね?」
今。
オレが今大事にしたいもの。
このままみんなとずっと一緒にいたい。
潤くんと今までどおり一緒にいたい。
あぁ、オレのモヤモヤの正体、ちょっとわかった気がする。
今までずっと同じだった潤くんが、当たり前だけど同じじゃなくなる事が淋しかったんだ。
ずっと一緒だと思ってたのは、オレだけだったのかもしれないって事が、淋しかったんだ。
「はは……何か……すげぇガキだな。」
ん?って顔してるおーちゃんに、何でもないよって言いかけて、言葉が詰まった。
ふと視界に入ったマックに、潤くんと翔ちゃんがいる。
その光景を見て、一気に体温が下がるような感覚になった。
その後は、平気なフリをしておーちゃんの買い物に付き合った。
でも、頭の中はグチャグチャだった。
翔ちゃんには、言ったのかもしれない。
潤くんは翔ちゃんに対してはすごく憧れてるみたいなトコあるし。
確かに翔ちゃんはすごく頼れる兄貴って感じだし。相談するには打って付けだろう。
もしそうだとしたら、オレって潤くんにとって何なんだろうか。
そんな事を考えてたら、部屋の窓がコンコンって鳴って、潤くんがいつもと同じようにやってきた。
その、「いつもどおり」にイライラした。
押し付けるみたいに渡されたのは、マックのジュースが、最後のダメ押しだった。
「誰と・・・一緒だったの?」
知ってるのに、嫌な言い方だってわかってるのに、抑えられなかった。
イライラする。
無神経な潤くんに、イライラする。
それよりも、潤くんにとっての特別がオレじゃないかもしれないって事実に、無性にイライラする。
「お前こそ・・・ずっと勉強してんのな・・・もしかして翔くんと同じB高狙い?」
「別に・・・潤くんには関係ない」
「ああ、関係ねーよ・・・俺が死ぬほど頑張ったってB高なんて行けるわけねーんだし」
B高に行くだなんて、オレは一言も言ってない。
それどころか、決める事さえ出来ていないのに!
「・・・勉強もせずにそんなこと言うんだ・・・潤くんには勉強、必要ないもんね・・・だって・・・もう進路決めちゃってるじゃん・・・・!」
自分ではもうどうにも出来ない感情が、言ってはいけない言葉になって零れた。
「・・・は?」
オレ、知ってるんだよ。
潤くんだって気づいてるだろうに、そんな誤魔化すみたいな返事をされて。
「一言くらい・・・相談してくれてもよかったんじゃないの?俺たちってそんなうっすい関係??俺・・・一緒にいられるんだと思ってた・・・高校生になってもずっと一緒だと思ってた!!」
余りにもガキ臭くて、自己中だ。
わかってる。だけど、どうしても言えなかった。
潤くん、淋しいよ。
置いてかれるみたいで、すげぇ淋しい。
滲んでいく視界が一瞬だけクリアになる。
言えない本音の代わりに、零れた涙のせいだった。