妄想blです。
お嫌いな方はスルーで。
side N
その人を初めて見た時、ビックリした。
図書館の大きな窓から差し込む日差しと同じくらい、柔らかい雰囲気と優しい顔で話しかけられたから。
オレが今まで知ってる大人とその人は、まるで違ったんだ。
差し出された本を受け取ったかどうかすら覚えてない。
だけど、気付いたら自分の手の中に本はあって、そのせいもあって上手くお礼の言葉も出てこなかった。
「なかなか大人っぽいの読むんだね。」
その一言で、更に恥ずかしさは増した。
目が合って、だけどそれ以上何も出来なくて。
思わずぺこりと頭を下げて、その人の脇を通り抜けた。
借りて帰った本を読んでいるのに、イマイチその世界に没頭出来ないのはあの人の事を考えてしまうから。
どんな言葉で表せばいいのか、よくわからない。
優しそうな人だった。
色が白いけど、不健康な感じはしない。
睫毛、長かった。
男の人だけど、綺麗って言葉がピッタリな人だった。
思い出すのは、記憶に残ったあの人の姿かたち。
それ以上の何かを感じたのに、それが上手く言葉にならない。
ただひとつ言えるのは、今まで出会った大人の人の誰とも違う、何か特別なものを感じたって事だけ。
あの人、何してる人なんだろう。
仕事、何してるのかな。
今日は休みだったのかな。
そんな事を考えてると、部屋のドアがノックされて、じいちゃんが入ってきた。
「和也、帰ってたのか。」
ワイシャツにスラックス姿のじいちゃんは、たぶん仕事に行ってたんだろう。
「図書館、行ってた。じいちゃんが教えてくれた本見つけたよ。」
「そうか。せっかくの休みなのに、友達とは遊ばないのか?」
じいちゃんだって、せっかくの休みなのに仕事じゃん。
そう思ったけど、口には出さなかった。
その事を申し訳ないと思っているわけじゃない。
だけど、上手く自分の気持ちを伝える事が出来ない気がしたから。
「みんな、塾とか忙しいんだよ。
それに、オレ本読むの好きだし。」
そんな適当な言葉で濁した。
納得したのかしていないのかわからないけど、いつもの様にじいちゃんはほんの少し眉を下げて、部屋を出ていった。
友達が塾なのも、オレが本を読むことが好きなのも本当。
だけどそれは、友達と遊ぶ事よりも優先させたいほどのものではない。
それだけが、唯一の嘘。
傷つけないように。
傷つかないように。
オレは、そうやって生きてきた。
今日のあの人。
また会えるかな。
そんな事を思って、少しワクワクした。