ツアーでの地方公演の夜には
リーダーである大野の部屋に集まって飲む事が、いつからか、何となく、
五人にとってのいつもの流れになっていた。
手にはそれぞれ好きな酒とツマミ。
誰からともなく始まる会話は
その日のライブの感想だったり、
プライベートなものだったりで
ライブ終わりの身体の疲れと
それに比例するかのような独特の高揚感も手伝ってか、その声音はいつもより一つ二つ高い。
「あーもう無くなっちゃった!もう1本貰うね!」
空になったビール缶をフルフルと左右に振った相葉は、それをテーブルの上に置くとすっくと立ち上がると
部屋の隅に置かれた冷蔵庫に向かう。
その動線で
部屋に備え付けられているデスクの上に置かれた閉じられた一冊のノートを見つけた。
「ねぇリーダー。これって日記?」
目ざとく見つけた相葉はノートに手を伸ばす。
大野が日記を付けている事は、メンバー全員の知るところだ。
机に置かれたそのノートがあまりにも日記帳とは程遠い装丁である事が、余計に相葉の興味を惹いた。
その相葉の仕草に気付き、止めに入ったのはノートの持ち主であろう大野だった。
「あー!ダメ!触るな!!」
その言葉よりも相葉の方が早く
大野の声が響いた時には既に、相葉の左手にはノートが乗り、右手はその表紙を捲っていた。
「何このノート。真っ白じゃん。」
ペラペラと捲る相葉は誰とは無しに独り言のように呟く。
「いいから、やめろって!」
思わず立ち上がった大野のその動きの反動で、凭れ掛かるように座っていた二宮はバランスを崩す。
「ちょっ・・・急に立ち上がんないでよー。」
急に支えの無くなった体が倒れそうになり、その反動で零れそうになったグラスを慌てた仕草で頭上に上げた二宮。
「にの、ちょっとごめん退いて。」
二宮の言葉もそれどころではないとばかりに相葉に手を伸ばす大野の向かいから
今度は松本が立ち上がる。
「なになに?日記じゃなの?」
相葉の肩に顎を乗せた松本はそのままの姿勢で、右へ左へとページが捲られていく相葉の手の中を覗き込む。
「真っ白じゃん。日記じゃないなら何のノートなの?」
何度もそのノートを捲りながら
松本の口から出る言葉もまた同じようなもの。
「智くんがダメだって言ってるんだから、やめろって。」
一人掛けのソファに座っていた櫻井は大野の制止を聞かずに顔を見合わせながら真っ白なページを捲る二人に
しょうがないなと言わんばかりに諭す。
だが、それで素直に聞く二人ではない。
嵐のやんちゃ坊主と言われるくらいには好奇心旺盛な相葉と、何かと大野に自ら絡んでいく松本には、櫻井の制止も大野の声も届かない。
そんな二人だからこそ、大野はひとつため息を吐いた。
「それ、好きな夢が見れるノート。」
諦めて観念した大野は、相葉の手の中のノートについて話し始めた。
「それに見たい夢を書くの。そんで、表紙を閉じたら書いたものが夢で見れる。」
「は?」
「え?」
「・・・何言ってんの?」
「智くん、疲れてるの?」
4人が一斉に大野を見る。
その圧に耐えられないのか、4つの視線を避けるように僅かに俯いた大野は、そのノートについて続けた。
「マジなんだって!昨日も見れたし!」
怪訝そうな4人の声にムキになって反論したが、誰一人として納得する顔はしない。
「有り得ないよ、そんなの。」
「妄想が過ぎる・・・。」
否定された悔しさからか、唇を尖らせた大野。
その表情から何を読み取ったのか、二宮が声を上げた。
「だったら、みんなで試してみたらいいじゃない。」
それは、ある種の確信をもったかのように
キッパリと言い切った言葉だった。
その言葉の裏にあるのは、二宮の大野への絶対的な信頼からなのか。
4人のやり取りを1人遠くから眺めていた櫻井は、二宮の言葉にそんな感覚を抱いた。
「ニノがそこまで言うのなら、やってみる?」
援護射撃を切り出したのは、櫻井。
二宮が言い切ったのと同じように、櫻井もまた大野への信頼は厚い。
その彼が嘘をつくはずがない。
櫻井の提案に、ノートを手にした2人は互いの顔を見て一瞬言葉が途切れたが、それを打ち破ったのは、相葉だった。
「くふふ。面白そう!みんなでやれば怖くない?的な?!」
相葉のそのセリフに部屋の空気が緩んだ。
「よっし、じゃあやり方教えるからな!」
先程まで尖らせていた唇は打って変わって饒舌に語り出す。
「ノートに、見たい夢を書くんだよ。
書いたそばから消えちまうから真っ白なんだけどな。
そんでー、書き終わったらノートを閉じる。
その瞬間から、夢が始まるんだ。」
簡潔に、だが経験しているからこそ饒舌に説明する大野。
「え?夢が始まるって、どうゆう意味?
書いて、閉じたら寝ちゃうの?」
「どんな夢でも見れちゃうの?!」
細かい説明を求めたのは松本で、
興奮気味に食いついたのは相葉だった。
「そう。」
大野の肯定の言葉に、相葉は天井を仰ぎ、松本はまだ半信半疑のようにノートを捲る。
櫻井は考え事をする時の癖なのか指先で唇をなぞり、二宮は目を閉じた。
それぞれが、どんな夢を見たいのか
考えているのだ。
「よし!オレ決まった!!」
「ん、俺も。」
相葉から松本へ。
そして松本から櫻井にわたり、最後に二宮の手に渡ったノートは
大野の説明のとおり真っ白のまま。
書いたそばからゆっくりとその文字は消えていく。
そうして真っ白なままのノートは
大野の手に託された。
「みんな書いたか?じゃあ、いくぞ?」
大野の合図に、4人はそれぞれ違った表情を浮かべつつ、コクンと頷いた。
それを確認して、大野はゆっくりと
そのノートの表紙を閉じた。
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