お嫌いな方はスルーで。
「スプモーニとユニオンジャック。」
その後のふたりの
ハジメテのお話です♡
カウンターに立つ翔ちゃんの手から、
シェイカーの音が一定のリズムで刻まれる。
奥の厨房では、潤くんが次々に入る
フードのオーダーを捌いていく。
そしてオレは、
出来上がった料理とカクテルを手に
テーブルとカウンターと厨房を
行ったり来たり。
相も変わらず、週末のバンビズは忙しい。
「ねぇ、ニノくん。」
カウンターに立ってグラスを洗っていると、目の前に座ってる女の子に声を掛けられる。
「なに?オーダー?」
オレよりも若いんだろう印象のこの子は
いつもなら友達と一緒に来店するのに
珍しく今夜は一人だ。
友達からは「なーちゃん」って呼ばれてて
潤くんが作った料理を食べる時の笑顔が印象的で、すぐに顔と名前を覚えたんだ。
「あのね、女の方から誘うって
・・・アリかな?」
もうほとんど入っていないグラスを回して、カランと鳴る氷を見ながらそんな質問をしてくる。
「んー・・・、誘う内容によるだろうけど。
オレは別に気にしないかな?」
オレなら・・・って考えて答えたけど、
結果としてそれは当たり障りのないものになってしまって 、
イマイチ「なーちゃん」の顔が晴れないのは、そんな答えだからだろうか。
「はぁ・・・。
恋って、難しい。」
ため息と一緒に吐き出した言葉に、胸がきゅっとなる。
うん、恋って難しい。
だけど、恋って・・・
「ねぇ、なーちゃん。オレのオススメのカクテル飲む?」
「ニノくんのオススメ?珍しいね。」
「今のなーちゃんにピッタリだと思うんだ。
ちょっと待ってね。」
他のお客さんと談笑してる翔ちゃんに
オーダーを出す。
「翔ちゃん、アレ作ってよ。」
「アレって?」
「前にオレに作ってくれた、アレ。なーちゃんに作ってくれない?」
そんなヒントだけでも理解してくれた翔ちゃんは、背面の棚からウォッカとリキュールに手を伸ばす。
ジガーと呼ばれる軽量カップを使い
シェイカーの中に注がれるアルコール。
翔ちゃんの流れるような動きを見ながら、もうずいぶん昔の
あの日の事を思い出していた。