妄想blです。
お嫌いな方はスルーで。
隣に座る松本さんの胸に飛び込んだ。
それはまるで、横からのタックルみたいな格好。
勢いが付いた体は、そのまま砂浜に倒れる。
だけど、その腕が抱きとめてくれたから
衝撃はほとんど無かった。
手の中の缶コーヒーすらもどうでもいいと思えるくらい、この人に触れたい。
感情のままに動いた。
そして今、それをちょっと後悔していた。
・・・顔が、上げられない。
「・・・二宮さん?どうしたの?」
「・・・わかんない。でも、こうしたくなった。」
恥ずかしさを隠すみたいに答えたその声は、ぶっきらぼう過ぎたかもって自分で心配になるくらい。
だけど、本当にこの後の事を何も考えてなかったんだ。
どうしよう・・・。
ぎゅっとその胸にしがみついた。
「・・・コーヒー、溢れちゃったよ?」
クスクス笑うみたいに言われて、申し訳なさが立つ。
「・・・ごめんなさい。」
謝罪の言葉は出るけど、まだ顔は上げられない。
「派手に溢れたから、このままじゃベタベタしちゃいますよ。うち、近いんで・・・シャワーしにうちに来ませんか?」
え?って思う間もなく、起き上がった松本さんに手を引かれて
ロングリードの先で遊ぶたろうに声を掛けて。
あっという間に手を手を引かれて、海岸を後にしていた。
『J’s』と書かれた看板が架かる門柱を抜け、玄関ドアを開けた松本さん。
「・・・どうぞ。大野さんちみたいな豪邸じゃないど。」
「・・・お邪魔、します・・・。」
招き入れられた家は、ナチュラルテイストのこじんまりとした一軒家。
バスルームは廊下の突き当たりだと言われ、そのとおりに進む。
その廊下の途中、開け放たれたドアから見えるその部屋はリビングのだろうか。
ソファと、テーブル。そして、一角が仕事場のようになっていて、壁伝いにある棚にはたくさんの本やファイルが並んでいる。
「仕事部屋と打ち合わせの部屋も兼ねてるんで、狭苦しいんですが・・・。」
思わず立ち止まって眺めていたオレに、そう声をかける松本さんは、突き当たりのドアの前まで進んでいた。
狭苦しいなんて言葉は感じさせない綺麗に整頓された部屋は
松本さんの真面目な性格を表してるみだいだと思った。
「脱いだ服は洗濯機に入れて下さいね。着替えはこれを・・・。」
タオルと一緒に渡された着替え一式を受け取って洗面所に入った。
言われた通り脱いだ服を洗濯機に入れて、浴室に入る。
シャワーのコックを捻って、頭からそれを浴びながら
改めて何だか申し訳ない気持ちになった。
それと同時に、躊躇い無くオレを家に招き入れた松本さんに
ほんの少しだけ、胸がぎゅってなった。
こうやって家に上げてくれるのは、優しい人だから?
それとも。
オレが、ニノだから?
そうゆう関係だったのなら、こうして家に上げる事だって普通の事だろう。
そう思って、さらに胸がぎゅっとなる。
ニノは、オレなのに。
そのオレが覚えていない記憶が、モヤモヤとさせる。
・・・なんか、嫌だ。
優しい人だからかもしれない。
だけど、ほんの僅かでも
ニノであるオレだから、こんなに簡単に家に
招き入れてくれたのかもって思いが拭えなくて
その思いが、胸を、頭を掻き乱す。
・・・オレは、ニノに嫉妬してる。
自覚した途端に情けなくなる。
よりにもよって、自分で自分に嫉妬するなんて。
バカげてる、と、思うのに。
一度湧き上がった感情は頭を振っても出ていってくれない。
コックを更に捻って、冷たい水を勢いよく頭から被った。
この、わけのわからない感情も
一緒に洗い流せたらいいのに。