妄想blです。
お嫌いな方はスルーで。
一瞬、何が起きたのか分からない。
見える景色がさっきとはまるで違う。
視界いっぱいの青。
その青に登っていく気泡は大小様々で。
それでやっとプールに落ちた事を理解した。
この景色は、あの時と同じ・・・?
フェリーから投げ出されて、暗い海に落ちて沈んでいくあの記憶・・・?
だけど、何となく違和感を覚える。
あの悲しい記憶よりももっと脳に刻まれている強い思い。
その思いを、そっと辿る。
手繰り寄せる。
その瞬間。
・・・置いていかれた?
・・・もう帰ってこない?
・・・触れる手は優しかったのに、オレを置いてくの?
・・・じゅん。
カフェで松本さんの声を聞いた時と同じ、また記憶が過ぎる。
悲しい記憶。
淋しいって感情。
これは、なんだろう。
立ち上がっていく気泡を見ながら、同じような景色を見てすごく淋しくなった。
その時、急に手首を掴まれる。
その方を見ると、そこには松本さんが必死の顔をして手を伸ばしてる。
・・・やっと会えた。
・・・もう、一人じゃないんだ。
捕まえてくれた事が嬉しくて、抱き寄せられたその腕の中が安心できて。
・・・会いたかった。
そんな思いが胸に溢れる。
溢れた思いはそのまま彼に伝えたくなって
抱きしめられた体を更に引き寄せて
そのまま口付けていた。
・・・淋しかったんだから。
・・・どうして置いてっちゃうの?
・・・じゅん。
触れるだけだった唇は、いつの間にか何度も角度を変えていて。
息が続くまで、そのギリギリまで
溢れる思いのままに唇でそれを伝えた。
「・・・二、ノ?」
戸惑うような松本さんの声に、我に帰る。
「あっ・・・ごめ・・・。」
「ニノ、なんで?今の、なんで?」
「・・・もしかして、前にもこんな事あった?」
淋しくて、世界の全部をいらないと手放した。
だけど、待ちわびていたその人が迎えに来てくれた事がすごく嬉しくて。
ずっと、側にいて欲しい。
側にいたい。
心の底から思った。
大野さんに出してもらったバスタオルで濡れた体を拭いて、着替えを貸してもらって。
松本さんから、もう一度同じ質問をされた。
「ニノが、プールから出てこなかった事があったんです。急ぎの仕事が入って、どうしてもこっちに帰れなくなって。それで、ニノは拗ねてプールの底に・・・。」
ふふって優しく笑う松本さんのその笑顔で、さっきの記憶が何となく繋がった。
繋がって、しまった。
それはつまり
オレが、オレの中を掠める記憶は
懐かしいって感情は
全部、全部、ニノに繋がっている。
どう考えても結びつかないはずの事実。
だけど、もしもそれが答えであれば
これらの感情と記憶に合点がいく。符合する。
松本さんが探しているニノは
オレなのかもしれない。