妄想blです。
お嫌いな方はスルーで。
向かい合って座った目の前の人。
松本潤さん。
その声を聞いた時に過ぎったのは何だったのか。
既視感?
そんな言葉で表すには、余りにもそれはリアル過ぎて、だけどそんな言葉がしっくりくるくらい目の前の人の存在感が何となく懐かしくて。
不思議な気持ちで、その人を見ていた。
「・・・俺の事、わかる?」
大きな瞳に不安の色を纏わせながらそう尋ねる彼に、何て答えたらいいのかわからない。
「・・・わかりません。でも、どこかで会ったような不思議な気持ちでいるのは事実です。」
思っている事を、素直に伝えた。
そっか・・・って。
ちょっと残念そうに答えたその人がとても頼りなげで、落ち込んでいるのが見て取れたから慌てて言葉を足す。
「あの、わからないっていうか。もしも、今までに会った事があったのなら、きっとあなたの事は覚えてると思うんです。」
それくらい、インパクトの強い綺麗な顔立ちをしているから。
「でも、正直オレの記憶には、ない。
ないはず、なのに。
何でだろう・・・あの海岸で見た月みたいに
懐かしい感じがする。」
そう。
懐かしいとか、やっと会えたとか。
この人の事を知っているような感覚が
ずっとしている。
それなのに、記憶にだけ存在しない。
そんなチグハグな感情がさっきからずっとあって
どうしていいかわからない。
「松本さん・・・どうしてオレにメールをくれたの?」
「あー・・・それは・・・どこから話したらいいのかな。」
視線を外し、その唇を指でなぞりながら、言葉を探しているような仕草をする松本さん。
「二宮さんの撮ったあの『追憶』ってタイトルの写真が、俺の記憶と重なったから。ずっと探してるものの手がかりになるのかもしれないと思ったんです。」
視線は外したままでそう答えた松本さんは、ほんのちょっとバツが悪そうにして。
それが、なんか、可愛いなぁって思った。
「・・・仕事がしたいっていうのは、嘘?」
わざと、意地悪みたいにして聞いたら
慌てたように否定された。
「一緒に仕事をしたいって思ったのは本当!
だけど・・・二宮さんを知るきっかけになったのは・・・俺の捜し物のおかげっていうか・・・。」
その慌てっぷりがまた、可愛くて。
思わず口元が緩む。
「今度は俺が聞いてもいいですか?
さっき、俺の事『じゅん』って呼んだのは、どうして?」
真っ直ぐに見つめながら問いかける松本さんのその目はすごく真剣で、その目だけでイタズラにメールを送ってくれたんじゃない事が伝わる。
だから、オレもちゃんと、答えなきゃって思った。
「それは、思わず、なんです。あなたの声を聞いた瞬間、頭の中を過ぎった記憶があって、振り向いてあたなを見たらその記憶と同じ人が目の前にいた。
気付いたら、そう呼んでいた。」
「覚えていない記憶って事ですか?」
「日本語としてはおかしいですけど、そうですね。既視感というか・・・懐かしいというか・・・不思議な感覚です。」
オレの答えにまた唇を触りながら言葉を探すみたいな仕草をしている。
そんな松本さんに、何だか申し訳なさが湧いてくる。
「・・・なんか、すみません。オレ、ちょっと前に事故に遭って。」
「あ、知ってます。もうお体は大丈夫なんですか?」
「外傷はほとんどないから。ただ、暫く眠ったままの状態だったらしくて。記憶がこんなに曖昧なのは、もしかしたらそのせいかもしれません。」
「眠ったまま?」
「はい。外傷が無くて、脳にも異常はみられなかったって。脳波が示す波形は、眠っている状態のものと同じだったって聞いてます。」
「それって・・・どれくらいの間ですか?」
「十日間、って聞いてます。」
そう答えた途端、目の前の松本さんの目が見て取れるくらいに潤んでくる。
その水膜は見る間に厚みを増していく。
・・・え?
・・・なんで?
今にも溢れてしまうんじゃないかってくらいその瞳は涙を溜めていく。
どうしていいのかわからなくて、だけどハンカチなんて持ち合わせていなくて。
とりあえず、目の前のおしぼりをそっと差し出した。
「やっぱり二宮さんは、俺が探している宝物の鍵を持ってるかもしれない。」
差し出したその手を掴んで、綺麗に笑った松本さんの頬を、溢れた涙が伝った。