ことわざ漫談小話
ことわざ小話1~50
32「故郷に錦を飾る」
この「故郷に錦を飾る」ということわざはみなさんよく御存じですね。これは出世や成功して、はれがましく帰郷することです。それでは参りましょう、故郷に錦を飾るなど、それがよくわからない者の、どちらかと言うと私のようなとんまでぐずなやろうのばかばかしいお話しです。
「俺はなぁ、さっき故郷に錦を飾ってきた」
「え?さっき・・故郷に錦を飾ってきた!?」
「そうよ、どうだ、ええ、羨ましいだろう」
「そりゃなぁ、それで、また、どんな錦だねぇ?」
「どんな錦だ?へぇ、聞いて驚くなよ」
「だからなぁ、おめぇのこった、驚かねぇこともないが、それをチョイと俺に話してみろ?」
「話してみろだとう、このヤロウ。良いか、俺はなぁ、昔よく通った村にたった一つの亀の湯の風呂場の富士山の絵を、きれいな金や銀の絵の具で描いたものを飾ってきたところだ」
「え?あの亀の湯に、絵の具で描いた富士山の絵を・・飾ってきた?!」
「ああ、そうだよ。だから今頃はなぁ、年寄り連中は湯の中で、奴は到頭故郷に錦を飾ったとウワサしているよ」
「そうか、お前を、故郷に錦を飾った者とうわさをしているか。ああ、遅かったか。俺も臆せずそれをやればよかったなぁ」
「バカ、おめぇの錦は使い古した雑巾じゃないか?錦は雑巾じゃないのだ。バカと勘違いがない交ぜになっていると、そんな風になるのだ。おめぇには故郷に錦は飾れないよ、分かったか、ケチでとんまやろうが」
「ええ?こりゃまた先を越されたなぁ」
良いじゃありませんか。本人がそう思ってやったことですから、まったくやる気のない人に比べたら立派というものですよ・・ね。
沼の底に錦を飾ろうと悪巧みの 源五郎