ことわざ漫談噺 | 源のブログ

源のブログ

源のブログへようこそ。笑い話を書くことが好きです。ただ今「ことわざ漫談小話」等の笑い話しを創作発表しています。それに季節ごとの俳句や川柳も投稿しています。最近は「戯れ言」も書いています。作品名は画面右下側フリースペースをご覧ください。

  ことわざ漫談噺
  ことわざ落し話1~30

 2「井の中の蛙大海を知らず」 後編 

さて、絵なら何でも描くという三吉ですが、この後はどうなりますことやら、後編をお楽しみください。 

「ほう!こりゃ大層立派で自信の塊だ。なるほどのぅ、言えば何でも描けるか!」

「はい、何でも御座れ旦那さま」

「ほぅ! 分かった。そんなに描けるのか。それでも、なぁ、あ、そ、その中で、だ、一番描きたい絵とはどのような絵だ?」

「だから旦那さま、そんなのは無い。そりゃなんでも、馬でも牛でも鶏でも蛙も一番、泥鰌だって一番と、みんな上手にかける」

「これ、小さいなりして、そう怒るな」

「おらぁは怒ってねぇ。旦那さまには何度言ってもおらぁを疑う」

「ああ、分かった。そうか、みんな上手に画けると言うか!」

「それでは、これまで描いたものを持って来るかい?」

「ほう!それは見たいものだ。お前が描いた絵とやらを」

「それじゃ、俺、今取ってくる」

「ああ、いやいや、これこれ、持ってこなくてもよい」

「え!見なくて良い?」

「ああ、十分分かった。お前の、その顔には嘘がない。だが、三吉、さよは、お前のどの絵を見て文句を言うのだ?」

「おいらが描いた、さよさんの顔やその姿だ」

「何?さよの顔や姿!それは、またどうしてだ?」

「おいらにはそれが分からねぇ。それが、頼まれて描くたびに文句を言われるので」

「描く度に怒られる?」

「はい」

「ところで、あのさよに、何て、三吉は文句を云われるのだ?」

「それは・・・その」

「それは、どうした、言えぬのか?」

「そりゃ・・・目が細く、鼻が獅子鼻、それに顎が角ばって、背が低い、と、絵を見て嘆いては、あれやこれやと文句を言い出して、仕舞えに怒り出すだ」

「何、目が細く、鼻が獅子鼻、それに顎が角ばって・・・背も低い・・」

「へぇ旦那さま」

「これ三吉、その絵は、ありのままの絵ではないのか?」

「はい?・・上手に描けていると思うのですが、それがなかなか褒めて貰えねぇ」

「ほ、ほう!成るほどのぅ。褒めてもらえぬか」

「おいらには分からねぇ。だけど、美人に、しかも、そっくりに描いているのだが、何時も最後には怒られる」

「それで工夫が足りないと、お前に文句を言うのだな!そりゃ三吉も辛いなぁ!」

「それじゃ、旦那さまは、おいらの絵がわかるので?」

「いや、お前の絵はこれまで一度も見たことがないから、本当は分からない」

「え?分からねぇ。そりゃおかしいなぁ?」

「これ三吉、何がおかしい?」

「さっきはおいらの絵を見なくても、旦那さまは分かったような感じがしたが?それが、分からねぇと言うのだから、そりゃおかしいなぁ」

「ああ分かった。それでさよはお前の絵を見て、工夫が足りないとただ言うだけか?」

「いいえ。・・・それが、その・・・」

「それが、どうしたのだ?」

「それで訳の分からぬことを言って、ぷいと、居なくなる」

「その、わけの分からぬこととは、どのようなことだ?」

「どのようなことなのか、おいらにも、その意味が分からねぇ」

「ほぉ!三吉には、何を言っているのか、それが分からぬと言うのだな?」

「え・・はい」

「はい、では分からぬ。これ三吉、あのさよが、お前に何と言って怒っているのだ?」

「それは、確か、井の中の蛙大海を知らず、とか言って、おいらを睨みつける」

「何と!井の中の蛙大海を知らず、とな?」

「へぇ・・」

「あの、さよのやつは、三吉に、何べんも絵を描かせたが、思うとおりにならずとうとう腹が立ったのだ!」

「え?思うとおりにならないで怒った!」

「ははは、これ三吉、どうして怒ったのか、それがお前にはわからぬか?」

「へぇ旦那さま、どうしてさよさんは、おいらが描いた絵を見て怒ったのですか?」

「そりゃ、なぁ、わしにも本当は分からん」

「やっぱり、旦那さまにも、其の訳は、分からないと言われるか」

「うむ、成るほどなぁ。やっぱり、お前の絵は井の中の蛙大海を知らず、なのかも、知れんぞう」

「井の中の蛙大海を知らず、って、どんな絵ですか、旦那さま?」

「え!どんな絵と申すか!そりゃ、なぁ、もっと綺麗な絵じゃ」

「もっと・・綺麗な絵?」

「ああ、さよは歌が上手だ。しかも、歌もそうだがもっと麗人にならなきゃ我慢できない女なのだよ。だから誰が見ても綺麗な絵じゃないとさよは困るのだ」

「え?さよさんが麗人じゃないと困る?」

「麗人?そ、そりゃそうだろう、三吉。お前の絵は真面目すぎるのだ」

「俺等の絵が真面目すぎる?」

「これ三吉、真面目と云っても、それほど気にすることではないぞ」

「旦那さま、そのような訳の分からぬことでは、この三吉が困る。何時も晩飯になると、おかずが一品足りない」

「おかずが一品足りなくなる!」

「そうだ、旦那さま」

「お前の膳だけが、みんなに比べ、おかずが足りないと言うのか?」

「この頃は茶わんのご飯の量まで少ない」

「何!ご飯まで少ないと言うのか!」

「そうだ、旦那さま」

「それじゃ、なぁ、これでは腹が減って、じょうずな絵が描けないと、あのさよにご飯のお代わりを何杯も出すがよかろう」

「それが、旦那さま、この前、我慢できずお代わりを出したら、下手な絵よりもっと仕事を覚えろと、大きな目で睨まれた」

「ほう!絵より仕事をなぁ」

「はい、くりんくりんとした、どんぐりのような大きな目で怒られた」

「なに!あのさよの、あの小さな目が、今度は、どんぐりのように大きな目になって、お前を睨みつけるのだな!なるほどのぅ。それでは、さよは掴みようのない、なかなかと難しい絵となろうなぁ」

「旦那さま、そのような独り言では、おらぁ聞こえねぇ」

「これ三吉」

「へぇ?・・なんです旦那さま?」

「これから世間に出て、お前が描けぬという、絵を習って参れ」

「え?旦那さま、今、何と、おっしゃられましたか?」

「描けぬという絵を習って参れと、言ったのだ」

「旦那さま、その、描けぬという絵を習って参れ、って、どのようにすれば良いのですか?」

「そりゃ、お前にすれば簡単なものだろう」

「え!俺等には、簡単に描けるのですか?」

「ああ、簡単だ。それはなぁ、あの、どんぐり目のさよに、見せられる上手な美人画を、習ってまいれと言ったのだ。分かったか」

「え?上手な、美人画!」

「おまえにはたやすいことだ」

「それじゃ旦那さま、そのようにすれば、ご飯はたらふく食べられる?」

「ああ、恐らくなぁ、三吉ひとりでは食べきれんぞぅ、はははは」 

   それでは、お後もよろしいようで、
  長らくのご清聴ありがとうございました。  
                  源五郎

(注)ことわざ用語参考辞典:旺文社「国語辞典」1986年改訂版参考