ことわざ漫談噺 | 源のブログ

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源のブログへようこそ。笑い話を書くことが好きです。ただ今「ことわざ漫談小話」等の笑い話しを創作発表しています。それに季節ごとの俳句や川柳も投稿しています。最近は「戯れ言」も書いています。作品名は画面右下側フリースペースをご覧ください。

ことわざ漫談噺
ことわざ落し話1~30

2「井の中の蛙大海を知らず」 中編

 

三吉は期待された算盤も好きな絵にも勝てず、番頭にも見放される三吉を絵師に育てようと呉服問屋の主は考えたのでした。それでは前編の続きとまいります。

 

「え?三吉を帯や着物の下書の、絵師でございますか?」

「どうだ、そのように育てては?」

「絵師?大丈夫ですかねぇ、そんな大事な仕事が三吉にできますかなぁ」

「大丈夫ではない。そのように仕込んではどうだと聞いているのだ」

「へぇ、そりゃ、そうなれりゃの話ですが?」

「三吉は仲間はずれで仕事もままならず、算盤もできぬ、好きな絵も、それもできぬでは、からっきし駄目な男になってしまうじゃないか。なぁ留蔵、そうは考えぬか?」

「へぇ、三吉が・・絵師に・・ねぇ」

「お前は、はっきりせん男だなぁ」

「旦那さま、どうしたら良いやら、力の無いこの留蔵には分かりませぬ」

「バカもの、あきらめてどうする。だからなぁ、なんぞ、好きな絵が上手になる教えやらその方法はないものかと、おまえ留蔵に聞いているのだ?」

「へぇ、わたくしはご覧の通り、筆ならまだしも上手な人の真似ならできますが、絵は、とんと苦手でして、犬を描いても狸や猫に化け、猫を画いたつもりがネズミになって、馬でも牛でもそりゃみんな同じ絵になって、どの絵が馬やら牛で、何をどう教えてよいものやら皆目検討が・・・つきません、旦那さま」

「情けない。先ほどの嬉しそうな顔に、ええ、なんでもできそうな怪しげな目は、どこへ仕舞え込んだ。ええ、それじゃなぁ、留蔵」

「へぇ、何か、旦那さま?」

「その三吉とやらを、これへ連れて参れ」

「こりゃ!旦那さまが、あの三吉にお会いになって、なんぞ良いお考えでもあるのですか?」

「いやいや、その三吉と、好きとやらの絵のお話を、これからちょいとばかりしてみようと思うだけだ。心配いたすな」


老舗呉服問屋の主が、暮れに迷い込んできた三吉に会ってみようと言うのである。呉服の営為をするものが、一体、三吉の何に心を引かれるのか、皆から仲間外れにされている絵の好きなその三吉にこれから会って、絵のお話をしてみると言うのである。

やがて、その三吉が恐る恐るやってきた。


「旦那さま、三吉だ」

「お!三吉か?」

「はい、おらぁ三吉だ」

「分かった。おぅ、さぁ、こっちだ、入れ」

「はい旦那さま、それではお言葉に甘え、入ります」

「おお!どうだ三吉、寂しくはないか?」

「へぇ、寂しい?」

「そうだ。まぬけ、ばか、青瓢箪などと皆にのけ者にされて、寂しくはないかと聞いているのだ?」

「この三吉は、のけ者なんかにされていない」

「おお、そうか。みんなは優しいか?」

「優しくはねえが、おらぁ皆は厭きた」

「何!優しくはないが厭きていると言うのか?」

「うんだ。お手伝いの、さよ姉さんだけは、特別小憎らしく優しくねぇ」

「さよ姉さん?」

「うんだ」

「さよ、と申すと、歌えば歌の上手なあの娘のことだな?」

「うんだ。みんなは歌が上手だと言うが、おいらはまだその歌を一度も聞いたことがない、上手か下手かも、おらぁ分かりねぇ」

「それじゃ、何故、そのさよだけは、お前に優しくはないと言うのだ?」

「それが、何故だか、よくは分からねえ」

「なに、分からぬというか?」

「うん。それが、おいらの絵を見るたびに、三吉、お前の絵は工夫が足りねぇ、と頭こなしに、食っている芋を取り上げて、いつも怒られるのだ」

「ほう!お前の絵は工夫が足りぬと、頭こなしに怒るのか?」

「へぇ、そうだ。獲物を見つけたオオカミように、相当な勢いでおらの心にかみつくのだ」

「ほぅ?さよが、三吉の心にかみつく?」

「そりゃ、おっかねぇだ」

「それはそうかも・・なぁ。あの、さよがお前に噛み付くとはなぁ!」

「そうだ、旦那さま」

「それでは、お前は、どんな絵をさよに画いて見せたのじゃ?」

「見せたのではねえだ」

「見せたのではない?」

「うんだ」

「それでは、見せないで、さよは、何故、お前の絵は工夫が足りないと怒り出すのだ?」

「それがどうも、さよ姉さんは、おいらの絵が気になるのだろうなぁ。そして、おいらが大切にしまって置く場所を見つけ、その絵を勝手に持ち出して、それを見ては文句を散々言うのだ」

「歌のうまいさよが黙って、お前の画いた絵を取り出して、勝手に見るのだなぁ!」

「はい、何時も勝手に取っては、ひとりで見ている」

「それでは三吉」

「へぇ、旦那さま?」

「お前は、普段どんな絵を画くのだ?」

「え?どんな絵?」

「ほれ、お前が日頃描く絵は、どのようなものがあるのだ、と聞いているのだ?」

「それは、いろんなものを描く」

「いろんなもの?」

「へぇ」

「そりゃ、いろんなものと云っても、その中でも一番好きな絵というものがあろう。どのような絵が好きなのだ?」

「そのように言われても、おらぁ知らぬ」

「何?知らぬ!」

「はい、旦那さま。俺等は、絵なら何でもすらすらと描く」

「何でもすらすらと描く!」

「へぇ」

「ほぅ!三吉は偉い自身の持ちようだ。だが、何でもすらすら描けると云っても、その中で特に一番はこれというものがあろう?」

「そんなのねぇ、みんな一番だ」

「何!みんな一番?」

「そうだ、みんな上手だ」

「うむ、それでも、例えがあるだろう。なぁ、人にはそれぞれ得意と言うものがあるはずじゃ、それだからこのようにして聞いているのだ。例えば、それは馬とか、犬や鶏、それに蛙とかどじょうとかと、それなりに言えぬか?これ三吉?」

「それじゃ旦那さま、蛙にどじょう、タニシ、鯉やふな、それに馬、牛、猿や猫、犬、雉、山鳩に、それに人の絵など、言われれば何でも上手に描く」

 

 さて、何でも描く三吉の、この後の続きは後編と参ります。
   この続きは5月11日投稿予定です。お楽しみください。