チェルニャコフの奇抜な演出はベルリン州立歌劇場のパルジファルの映像がすでにBlu-ray化されているが、このトリスタンとイゾルデは強烈にすさまじい。現代を舞台にしたいわゆる読み替え演出で、1幕の舞台はクルーザー、2幕は宴会場の別室、3幕は保養所らしき別荘の一室?、とここぐらいまでは想定内だが、飲んだのは媚薬ではなくて覚せい剤?のようで、2幕3幕はハイになった薬物依存者のように2人とも舞台狭しと動き回る。これほど動き回るトリスタンとイゾルデも珍しい。おまけに3幕でトリスタンは薬で気を失っただけで死なず、フィナーレでイゾルデも死なず、トリスタンの脇に目覚まし時計を置いて終わる。何という読み替え! 私は読み替え演出は基本的にはあまり好まないが、先日のカルメンといい、このトリスタンといい、ここまで徹底的にやるとこれも面白いと思う。Blu-rayのパルジファルより面白かった。

 この難しい演出に関わらず、トリスタンのアンドレアス・シャーガーとイゾルデのカンペが最後まで集中力を切らさずに演じきったのは称賛に値する。座って歌うシーンが多いのも難しかったに違いない。シャーガーのトリスタンはやや粗削りでぶっきらぼうに聞こえるが、これは演出の役作りでもあるだろう。私にはグールドやザイフェルトの線の細いトリスタンやスケルトンの野太い声より好ましく、往年のコロやホフマンと比較できないにせよ現時点で望みうる最良のトリスタンだと思う。カンペも好演。ユニテルの収録なのでBlu-ray化を期待したい。無料公開されているうちに多くの人に見てほしい。
 

アンドレアス・シャーガー(テノール/トリスタン)

ステファン・ミリング(バス/マルケ王)

アニヤ・カンペ(ソプラノ/イゾルデ)

ボアズ・ダニエル(バリトン/クルヴェナール)

シュテファン・リュガマー(テノール/メロート)

エカテリーナ・グバノヴァ(メゾソプラノ/ブランゲーネ)

アダム・クトニー(バリトン/舵手)

リナード・フリーリンク(テノール/牧人・若い水夫) 他
[指揮]ダニエル・バレンボイム
[演奏]シュターツカペレ・ベルリン

[合唱]ベルリン州立歌劇場合唱団(合唱指揮:レイモンド・ヒューズ)
[演出・装置]ドミトリ・チェルニャコフ
[衣裳]エレナ・ザイトセヴァ

[照明]グレブ・フィリシチンスキ
[収録]2018年2月25日・3月18日、ベルリン州立歌劇場
[映像監督]アンディ・ゾマー

PROGRAMMHEFT »TRISTAN UND ISOLDE«

https://www.staatsoper-berlin.de/en/veranstaltungen/tristan-und-isolde.95/
https://player.vimeo.com/video/398189269

 

 


2幕と3幕でのクレイジーな騒ぎぶりは音を消して映像だけ見ていたらトリスタンとイゾルデだとは決して思わないだろう。

 


トリスタンは薬で気絶して寝ているだけで死なない!イゾルデも死なずにトリスタンの脇に目覚まし時計を置いて終わる! これは新しい! 凄い読み替え!