旅人のススメ 〜僕が目指す愛〜 | 浅見直輝の たびびとなおさん どこへゆく

浅見直輝の たびびとなおさん どこへゆく

役者、ベビーシッター、旅人です。
お仕事の依頼はこちらからお願いします。
serendiplife@gmail.com

「浅見直輝の風のきち」
YouTube https://youtube.com/@user-zn7bi6pq4p

Twitter @serendip_naoki

二人だけになった車内で、

突然おじいさんが口を開き、

僕らは話し始めた。

「わしら夫婦は、十歳違うんや」

「そうなんですか。

どうやって出逢われたんですか?」

「わしらの頃はみんなお見合いや。

親の決めた事には逆らえんかった」

「最近は恋愛結婚が多いですけど、

離婚も多いですから

お見合いの方が

良いかもしれませんね。

お見合いで離婚って

あまり聞かないですし」

「わしらは結婚したら

別れる事は頭になかった。

生きる事に必死や」


そうだなぁ。

昔に比べて今の時代は

様々な事に選択肢が増えた。

それが悪い事だとは

思わないけど、

だからこそ迷うし

その結果、我慢が足りないとか

言われてしまうんだけど。


ただ、

今与えられてる環境は、

先人達が頑張って作り上げてくれた

世界ではないだろうか?


”自分達の苦しみを

味わって欲しくない”


そんな想いが

今の時代を作り上げた。


使い方を間違えて、

ボタンが掛け違う事も

あるだろうけど、

それでも先人達の想いを

受け止めながら

この時代を踠いていくのが、

僕らの使命かもしれない。


おじいさんは

また話し始めた。


「あれもなぁ、

今は元気よう歩いとるけど、

何年か前に脳梗塞やって

寝たきりやったんや」


急な発言に驚いた。


「心臓に鉄の管も入れて

車椅子生活でリハビリもして。

ほんま辛かったやろうけど、

頑張って今では

杖もつかんと歩けるようになった。

でもそれからは、

薬の影響で1時間に一回は

トイレにいかなあかん。

だからここら辺の道は

どこにトイレがあるか

わかってるんや」


横の通りでは

何事もないように

車が行き交っていた。


「ほんで、リハビリが

よう(良く)なってきたと思ったら、

今度は頭の方が、

痴呆になってきたんや。

昔の事は覚えてるんやけど、

最近の事が思い出せへん。

そのうち、わしの事も

忘れるんやろうな」


言葉が出なかった。

その後もおじいさんは

変わらないトーンで話し続けた。


「そんなんなっても、

こうやってドライブに

行くって言うからなぁ。

わしはお守りやわ」


振り返ったおじいさんの笑顔は

とても穏やかだった。


初めて、ご夫婦と対面した時は

こんなに色濃い人生が

あるとは思わなかった。

しかし、誰しもが

これから同じような

経験をしていく。

さらに言えば

僕が想像もつかない体験を

このご夫婦はたくさん経てきて

今があるのかもしれない。


僕も同じような立場になった時

おじいさんのように

全てを受け入れて、

その瞬間を楽しめるだろうか。


二人でいろんな困難を乗り越え、

お互いに全てをさらけ出し、

喧嘩も数多くしてきたかもしれない。

それでもこうやって

ドライブを楽しんでいる。


子育てが一段落ついて

犬を飼い始めたと教えてくれた。

おばあさんの病気で

辛い事にぶつかった。

でもそんな話をするおじいさんの顔は、

大好きな人を思い浮かべる僕らと

なんら変わりはなかった。


いつか僕にも

人生のパートナーが出来た時、

そしてそのパートナーと

何十年も過ごした時、

変わらない笑顔で

大切な人の事を

誰かに話したいと思った。


このおじいさんのように。