◆◆◆くじょう みやび日録 第二期◆◆◆
周防柳さん『逢坂の六人』を読みました。
古今和歌集撰者・紀貫之が語る、<六歌仙>の思い出のおはなし。
かつて『蘇我の娘の古事記』が話題になっていた気がしますが、例によって初読みの作家さんと思います。
◆思わぬ広がりのある歴史物語?
純粋に物語として夢中で読めました、面白い!
ほかの作品は知りませんが、この小説は創作色強め。作風でしょうか。まったく知らない人が<史実>として信じてしまうとちょっと……。
「小説ですので!」と思って楽しみました。
物語の中心は、勅撰和歌集の撰者に選ばれた貫之が、<六歌仙>それぞれとの幼き日の思い出を振り返る、回想部分となっています。
貫之は可愛らしく利発で、しかしかなり夢見がちな子……
「夢のやまい」と言われています。
夜中に、「水」に惹かれて夢うつつにさまよってしまうような……
「水に興味を示す童」「みなもに映る鏡像を好む子」(文庫版・66頁)としていて、これは彼がのちに詠むことになる歌からヒントを得ている設定でしょう(貫之の歌には水がよく出る)。
思いのほか広がりのある歴史的事件も語られます。
すぐさま思いいたるのは、在原業平といえば、のちに二条の后となる藤原高子との密通事件。また、意外なところですと、大友黒主から語られる、壬申の乱、そして皇位継承にまつわる秘話など……
冒頭に申し上げた通り、かなり創作色強め。ですが、黒主の語りなど、とても恐ろしく、“小説的に”たいへん惹かれました。
有名な実際の歌のかずかずが、物語に織り込まれているのもいい。
◆貫之ら古今集撰者がいとおしい!
とはいえ個人的に最も面白かったのは、六歌仙の話をサンドする、冒頭(序)と終盤(終)の、小説中で現時点にあたる描写でした。
貫之は貴人から依頼されるなどから屏風歌の名手ですが、その創作風景描写がいい。自室に屏風が置かれていて、いい歌ができたら短冊に書き取って、その屏風にぺたぺた貼る!
「空想の世界に遊び、架空の天地にさすらうことが、なによりも楽しかった」「屏風絵に歌を添えることは(…)その絵の中の人間になりきって、野山を逍遥し、花鳥を愛でることであった」(29頁)
訪れた凡河内躬恒がくすりと笑って「相変わらず、遊んでおるな、つらゆき氏」(34頁)……
そうそう、古今集撰者が仲睦まじく「つらゆき氏」「とものり氏」とか呼び合っているのも可愛すぎます!(笑、全体的に彼らの交流・言動がオタクっぽくかなり親近感)
◆貫之の歌を思わせる幻想的な世界
小説にはありませんが、貫之の辞世ともいわれる歌があります。
手にむすぶ水にやどれる月影のあるかなきかの世にこそありけれ
(拾遺集・哀傷)
「手にむすぶ水」……それに映る「月影」……「あるかなきか」……
この小説にぴったり合っていると思います。
六歌仙との思い出も、もしかしたら、夢うつつの、なかば貫之の見た幻想なのかもしれない……という余白が残ります。