◆◆◆くじょう みやび日録 第二期◆◆◆

 

こざわたまこさんの短編集『明日も会社にいかなくちゃ』を読みました。初読の作家さんです(……ってそんなに小説読まないからね)。

 

同じ舞台で主人公が代わっていく型の、いわゆる連作短編集。

自分が読んで記憶に新しいものですと、例えば山内マリコさん『パリ行ったことないの』とか、最近気に入っている作家・千早茜さん『西洋菓子店プティ・フール』や『正しい女たち』も入るかな。

 

『明日も会社にいかなくちゃ』は、この形式がなぜ好きなのか、特に納得させてくれた一冊です。

 

 

 

連作短編集が好きな理由

 

同じ現象でも立場が違うと見え方が違う」ことを、具体的に見せてくれるから。

 

この小説では、ある会社を舞台に、最初は中間管理職に初めて就いた若い女性の話。次はただの無能なおやじっぽく見えていたその上司の話……という具合に、語り手を次々に替えていきます。

 

特別な事件ではなく、会社勤めをしていればなんとなく理解できるような卑近な出来事だからでしょうか、上述の「同じ現象でも立場が違うと見え方が違う」がすとんと腑に落ちる感覚でした。

 

・相手の立場に立って考えましょう

・人にはいろんな考え方があります

 

とか立派な御託を並べられても、そりゃそうでわかっているものの、なかなか難しいですよね。それを具体的に見せてくれるから、この形式の小説がありがたいんだな……としみじみ感じてしまいました。

 

 

 

個人的な感想:いつか会社員でなくなるとき

 

さまざまな立場、考え方、性別や年齢のキャラクターが登場します。

個人的には、最初の話に登場した真面目な中間管理職女性の後輩ちゃん。この話では微妙だったものの、後の本人の話を読んでみると、ううん、これはこれで……結構自分に近いかもしれん……と思ったり。

 

特に印象的だったのは最後の話。

退職直前の初老男性の思いが刺さるというか、そういうこともあるかもな、と思わせられました。

「今後社会で身の置き場を無くし、名もなき老人になっていく」、名前を呼ばれると「一人の人間として、失いかけていたものを取り戻したような気持ち」で嬉しい――

 

一度肩書を失えば、名前を呼ばれることも一人の人間として扱われることも極端に少なくなり、そんな自分に対して、時折謂れのない侮蔑や憐れみの視線を感じることもあった。/おそらくその視線を向けているのは、他でもない、かつての自分自身だ。(以上、文庫版271-272頁)