◆◆◆くじょう みやび日録 第二期◆◆◆
前記事の「練香」手作り体験のきっかけは、やはり『源氏物語』。
「梅枝」帖に、薫物合が描かれます。光源氏邸内でのごく内輪のお遊びではありますが、入内するひとり娘・明石の姫君の支度のため、ゆかりの女君たちに練香をお願いしたのです。
みやびに事寄せた女君たちの紹介のような趣で、光源氏の異母弟・蛍兵部卿宮とともに女君たちの香を語らいます。ほかにも筆跡の話題など、平安文化について紫式部の生の記述が見られ、たいへん興味深い巻です。
練香体験は、平安貴族が極めた「六種(むくさ)の薫物」から好みを選ぶものでした。お店のメニュー同様、以下の6種類が一般的です。
・梅花(ばいか)…梅の花のような華やかな香り/春
・荷葉(かよう)…蓮の花を思わせる涼やかな香り/夏
・菊花(きくか)…菊の花に似た香り/秋
・落葉(らくよう)…木の葉の散るあわれさを思わせる香り/冬
・侍従(じじゅう)…もののあわれさを感じさせる香り/年中
・黒方(くろぼう)…祝い事等に使用/祝事
[香源 練香手作り体験 資料より]
上記は体験でいただいたペーパーによりますが、文献により多少異なります。落葉・侍従も秋、黒方は本来は冬だが祝い事全般に用いられるため四季を通して使用可、とか。
香は平安貴族のおしゃれであるとともに教養ですから、時宜に外れたものは無教養と見なされてしまいます……
ちなみに梅枝帖では、格式高い黒方は朝顔の宮、華やいだ梅花は春の御方でもある紫の上のものが、それぞれ絶賛されています。夏の御方・花散里はつつましく荷葉のみを、明石はあえて季節の香りを外して百歩香の処方を取り入れた薫衣香を出しています。
今回、自分は春の体験かつ紫の上の得意とした香ということで「梅花」を選んだのですが、秋には「侍従」を作ってみたいと思っています。人一倍感覚の鈍いわたし、嗅ぎ分けられるのか(貴族の教養を忘れて生まれ落ちたからな)? これもまた楽しみのひとつになっています。
つづく