NHKラジオ講座「漢詩をよむ」第21回です。
<一条朝>の2回目「属文の公卿」です。「属文」とは詩文をつくる(能力を持っている)という意だそうです。
「晩秋遊清水寺上方」藤原道長、「贈飛州高使君赴任詩」藤原伊周、「秋日登天台過故康上人旧房」藤原有国(以上すべて『本朝麗藻』より)。道長、伊周などはトップクラスの公卿ですね。とくに伊周は、専門文人と肩を並べるほどの詩人といわれたそうです。
と、もう1編、七言律詩「世尊寺作」藤原行成(『行成詩稿』)。有名な三蹟のひとり。寺を訪ねたときの詩で、道長の詩と同じテーマです。2句目が似ていました。
道長:暫辞塵境草堂幽
(暫く塵境を辞して草堂幽<かす>かなり)
行成:暫抛塵網避炎蒸
(暫く塵網を抛<なげう>ちて炎蒸を避く)
行成にとっての世尊寺は母の思い出にもつながる特別な寺だったそうです。
この詩の第3連がおもしろいです。
松竹風生晴帯雨 林池月落夜鋪氷
(松竹に風生じて晴れに雨を帯び 林池に月落ちて夜氷を鋪<し>く)
ところが、この「夜」の右側に「夏」という文字が注記され、どうやら推敲のあとと思われるらしいのです。というのも、「晴れに雨を帯ぶ」は“晴れなのに雨”、その対句であれば「夏に氷を鋪く」“夏なのに氷が張る”のほうがよりふさわしい。遊び心があって面白いと思いました。
松竹風生晴帯雨 林池月落夏鋪氷