先日、午前診療がおわる間際、ある高齢女性がふらっと当院へたち寄る。
「風邪をひいたみたで、家のひとに『病院へ行って来なさい』と言わたのできました。」とおっしゃる。
お話をきいてみても、とくに風邪のような症状はみあたらない。
「ご家族は?」
「どうしてここにいらっしゃたの?」
いろいろ聞いてみたが、話がどうも噛み合わない。
どうやら、認知症がありそうだ。
どこかに向かう途中、道に迷ってしまったのではないかと推測。
自宅の電話番号はお分かりだったので、連絡してみると、
「妻に買い物を頼んだけど、一向に帰ってこないので心配していた。」とのこと。
ご近所だったので、自宅までご同行することに。
図々しく、お家にあがらせていただいた。
家の中は、ひどく散らかっていて足の踏み場もない、といった感じ。
奥にある、とても大きな書斎が目を惹く。
ぼくと、ご夫婦の3人で少しお話をすることに・・・
「どなたか手伝ってくださるひとはいますか?」
「奥様はどうしておひとりで買い物に?」
どうやら、ご主人は足のいたみで歩行が困難。
スーパーへの買い物は、奥様にお願いしているらしい。
今回はいつもとちがう、少し遠くのスーパーに買い出しをお願いしたのだが、
途中で道がわからなくなってしまったようだ。
幸い、訪問介護が定期的にみにきてくれているとのことで、一安心。
ぼくは、買い物を一部、訪問介護士さんにお任せすることや、介護タクシーの利用を提案してみた。
最終的には、介護士さんとケアマネさんに、今回の事例をご相談することになりました。
とにかく、奥様の認知症に早い段階で気がついてよかった。
そのまま帰らせてしまったら・・・怖いですね。
買い物問題も、家族背景をお聴きしなかったら気づかなかったでしょう。
認知症のかたは地域で支えなければ・・・と強く感じました。
地域の鍼灸院にはこんな役割もあるんだな〜と、勉強させてもらいました。
帰り間際、ご主人に「あなた鍼灸師でしょ?なんで関係ない私たちにそんなに親切にしてくれるの?」
と言われた。
「うーん。」と考えたが、
「やっぱり、困っている人を助けたいからですね。」と答えた。
「なんて、立派なお方だ。」
「では、これをお礼に。」
奥の大きな書斎から出てきたのは、分厚い哲学書。
なんと、ご主人が執筆されたものらしい。
名刺も一緒に頂いた。
ちょっとした人助けをしたら、思いがけないプレゼントを頂いた。
これはなにかのご縁だろう。
今度、ゆっくり読んでみよう。