■ 明け方の、ちょっとした冒険
7月19日、まだ早い時間のことよ。
このひとがトイレに立った、その一瞬の隙。
部屋のドアがわずかに開いていたのを、わたしは見逃さなかったの。
そっと隙間から抜け出して、隣の部屋へ。
別に遠くまで行くつもりはなかったのよ。ただ、少し外の空気(違う部屋の空気だけど)を感じたかっただけ。
でも、隣の部屋で「ニャー」って鳴いたら、このひとが飛んできたわ。
「バサラ!? どうやって出たの!?」って、すごい顔をして。
あっという間に抱き上げられて、元の部屋に強制送還よ。
■ 部屋に戻された後の、静かな抵抗
しばらく大人しくしていたんだけど、そのうちこのひとが「あれ?」って様子を見に来たの。
「クチャ……ペチャ……」
その音を聞いて、このひとは最初、こう思ったみたい。
「また服の隙間から、腫瘍のあたりを舐めてるのかな」って。
たしかに、病院で毛を剃ってもらった鼠蹊部のあたり、なんだかムズムズして気になっていたのよね。すっかり毛がなくなって、皮膚がむき出しになっているところもあるくらい。だから舐めたくなる気持ちも分かってほしいわ。
でも、このひとが覗き込んで気づいたのは、それだけじゃなかったの。
わたし、実は服そのものをどうにかして脱ぎたくて、布をガブガブ噛んで、思いきり引っ張っていたのよ。「変な音」の正体は、舐める音じゃなくて、わたしが服と本気の力比べをしている音だったの。
「ダメダメ、噛まないで!」って止められたけれど、わたしだって必死だったの。この服、ずっと着けられていると、なんだか落ち着かないのよね。
■ 夕方に見つかった、小さな代償
そして今日の夕方。
このひとがベッドの下を何気なく覗いたら、そこに小さなものが落ちていたの。
……わたしの歯だったわ。
朝から服をガブガブやっていたせいなのか、もともと年齢的にぐらついていたのか、それは分からない。けれど、間違いなく私の歯が1本、抜けてしまっていたの。
歯を手のひらに乗せて、このひとは呆然としていた。
「バサラ……これから、どうしていこう……」って、小さくつぶやいていたわ。
わたしとしては、そんなに気にしなくてもいいと思うのよ。今はもう美味しいパウチのごはんを食べているんだから、歯が1本くらいなくても平気。硬いカリカリを頑張って噛む必要はもうないんだもの。
でも、この服との戦いだけは、そろそろ何か別の方法を考えてほしいわね。
このひと、次はどんな作戦を考えてくれるのかしら。楽しみにしているわ。
―― バサラ