最近

夜更けに白湯を飲んでいます。
体が内側からあたたまって
こころなしか
リラックスするような。





皆さまも
季節の変わり目を
健やかに過ごされていますように。




イラン世界自然遺産 すべてunescoサイトより




『スモモの木の啓示』
ショクーフェ・アーザル著
堤幸訳
2022年2月刊



タイトルと表紙絵に惹かれて手にしました。



13歳の少女バハールが語る
家族の物語です。

舞台は40年前のイランに始まります。



西欧寄りの王朝が
革命により途絶え
政治制度が激変。


「街角や広場で暴力を見ることに
目が慣れてしまうと、
感覚がどんどん麻痺してしまう。

すると人間は
いつの間にか
自分が敵だと思っていた人間になる

ーそんな暴力を広める側の人間に」

バハールの母の口癖


政変に
馴染む者あり
馴染めない者あり。


ブルジョワと批判される
名家で
読書と詩的世界を愛する
バハールたち家族は、
後者で

ある出来事をきっかけに
屋敷を売り
首都テヘランから
古くからゾロアスター教信者が隠れ住む
僻地ラーザーンへ移り住みます。





バハールの語りは

イラン・イスラーム革命や
イラン・イラク戦争などの
歴史上の出来事と

死神や幽鬼(ジン)が力をもつ世界
アラビアンナイトや
おとぎ話で語られるような
摩訶不思議な出来事が

からみあい

生者と死者の
愛と喪失
悲しみや哀れみ
つよさ脆さを
詩的にあらわします。


父、母、姉、兄。
家族はみな、
争いを好まず
絶望と悲しみのなかでも
それぞれの方法で
美や愛や自由を見出そうとします。


筆舌に尽くしがたい現実を
冷静に語り伝えるには

物語が必要なのかもしれない

だから
幻想的な口承文学が
生まれたのかもしれない。











「これだけ国が破壊された今、私にできるのは、自分が信じないものに染まらずにいることだけだ」        バハールの父の言葉







幸福を得る
すべての利器を備えた都市にいながら
自らを破壊したのは私たちが最初ではない

             バハラーム・ベイザーイ









初読は
不思議なエピソードの面白さに
心を奪われ

世界史をつまみ食いして
読み直すと

語られた人々と
語られ漏れた人々
それぞれの
悲哀に胸がつまりました。



面白いけれど

面白いというには、
あまりに切ない。







作者ショクーフェ・アーザルは
イランで育ち

労働者や女性の権利などに携わり
三度逮捕され身の危険を感じます。
家族のすすめで
難民となり
ボートで命をかけて逃れ
オーストラリアで亡命が叶います。







本作品は国際ブッカー賞、全米図書賞の
最終候補作でありながら
ペルシア語から英訳した方は
安全上の理由から匿名のままです。

イランでは非公式でしか手に入らず

日本で自由に読めることが
奇跡のように思えます。







私にはこの物語が

理由にもならない罪で
自由と尊厳と
命を奪われた人々や

家族を奪われ
心を砕かれ
残された人々。

大勢の死者と生者の

怒りと復讐と

赦しと

鎮魂のための語りのように聞こえました






幽鬼と歴史上の人物
魔法と戦争
現実と非現実の物語が

木の枝が空に広がるように、
蔦が絡まるように語られる
『スモモの木の啓示』の物語。

その物語を語る
作者アーザルもまた

伸び続ける幹であり
枝葉や蔦となって

登場人物の一人として
語られているようです。





おすすめしたい
そして
感想をうかがってみたい一冊です。





















写真、誤字訂正しました。
お読みくださった方、失礼しました悲しい

ヒルカニアの森は物語の舞台にもなっています。写真をお借りしたユネスコのサイトです。






追記

訳者あとがきにある現代イラン系作家の邦訳作品です(邦訳刊行順)

サーデグ・ヘダーヤト『生き埋めーある狂人の手記より』国書刊行会2000 石井啓一郎訳

マルジャン・サトラピ『ペルセポリス』バジリコ2005 園田恵子訳(グラフィックノベル)

アーザル・ナフィシー『テヘランでロリータを読む』白水社2006 河出文庫 市川恵里訳

マーシャ・メヘラーン『柘榴のスープ』白水社2006 渡辺佐智江訳

オテッサ・モシュフェグ『アイリーンはもういない』早川書房2018 岩瀬徳子訳

アザリーン・ヴァンデアフリートオルーミ『私はゼブラ』白水社2020 木原善彦訳

日本在住 シリン・ネザマフィ