金原ひとみさんの
書評の言葉が
気になり手に取りました。
本書は特殊な立場に置かれ
自らの特殊性に苦しむ著者によって書かれたが
この特殊さは決して私たちと無関係ではない。
書いてもテロには勝てない。
大震災や交通事故にも勝てない。
しかし書くことは、
勝ち負けという概念から
人々を解き放つことができる。
『跳ね返りとトラウマ
そばにいるあなたも無傷ではない』
カミーユ・エマニュエル著
吉田良子 訳
2023年1月刊
「跳ね返り(リコシェ)」は
フランス語で
水面を石が跳ねる水切り(石切り)や
跳弾を意味し、
転じて
直接被害者の身近な者が受ける
被害や影響を指すそうです。
この本はこの「跳ね返り(リコシェ)」について作者の実体験と取材調査をもとに書かれています。
2015年1月パリで
シャルリ・エブドが襲撃され
風刺画家の夫は
遅刻したわずか2分の差で
虐殺を免れ九死に一生を得ます。
けれど
同僚や親しい友が犠牲となる
凄惨な犯行現場を目撃したため
夫は不眠と悪夢に苛まれ、
また襲われるのではないかと
かすかな物音にもパニックを起こすように。
襲撃への不安、警護による束縛、
パリから離れ転居を繰り返し
これまでの日常を失い
周囲や国の心の傷への無理解に苦しみます。
心に深い傷を負った
夫が持ちこたえるよう
話を聞き、支え続けるうちに
作者もまた
ときに夫以上に
心に深い傷を負っていきます。
「あなたは被害者の近親者ですから
跳ね返りによる被害者なのですよ」
事件当夜、心理士にかけられた
「跳ね返り」という言葉をヒントに
作者は自分に起こった変化について
当事者や専門家へのインタビュー
ニーチェやプルーストといった文学
映画や鳥や植物などの他分野にあたり
「跳ね返り」の状況に肉薄する言葉を探り
身近な者が受ける被害や影響を
定義づけようとします。
日本なら
“トラウマの二次受傷”
に該当するのでしょうか。
戦争、事件、事故、災害、病気。
警察官や医療従事者
介護や、心理など
被害者や当事者の語りをつぶさに聞き
苦しむ姿を目の当たりにすることで
追体験し受ける心の傷。
この本を読むと、
職業に従事する者だけでなく
身近な者が受ける衝撃の大きさが
想像以上に大きく
深く長く
快復の道のりが容易でないことに
気づかされます。
当事者の語りや出来事から
うまく距離をとるようにと促されますが、
渦中にいるとままならず
関わらざるをえないことは
多々あるのではないでしょうか。
何より「跳ね返り」の一番の課題は
直接被害者のトラウマが重いがために
そばにいる自分に
傷が在るとは認められないことです。
フランスでは跳ね返りによる
被害者の損害を認め、
保証金が払われています。
在ると認められることの
意義や重要性を作者は強く訴えます。
そして作者は
専門家とのやりとり以上に
友人でなくても
ふだん親しくなくても
助けが必要なときに手を差しのべてくれ
話を聞き傍らにいてくれた
人々のなにげない行為に
少しずつ救われていきます。
サブタイトルにある
「そばにいるあなたも無傷ではない」
誰にでもあてはまりうる
この言葉は
心の片隅に留めておきたいです。
校正に協力された精神科医、阿部又一郎さんの書評です。専門知からみる本書の位置づけについても触れられています。
引用した金原ひとみさんの書評です。



