気忙しくしていたら
いつの間にか梅雨入り、
6月も半ば。




晴れ間には

シオカラトンボを
見かけるようになりました。






ちいさな虫刺されのために
今年もドクダミチンキをつくりました。

花はそろそろおわりです。





オーディオブックがわりに
手仕事しながら観た映画のひとつ


『土を喰らう十二ヶ月』




原案は水上勉の料理エッセイ
『土を喰う日々』から。

映画の主人公も「ツトムさん」。




水上勉さんは幼少期、貧しさから
寺に預けられ
小僧として煮炊き掃除を躾けられます。
辛さのあまり一度は逃げ出すものの
寺で料理する少年時代
数々の職を経て人気作家へ。


映画でも
火を熾して作るのは
父や住職から教わった
滋味あふれる菜の数々。

私にとっても懐かしい味。





亡くなった方のために集う
通夜での精進料理、
通夜振舞い。



収穫した胡麻からつくったごま豆腐

ツトムさんは
役者、歌手の沢田研二さんのいい声で
経も読まれ、

手びねりで
自身の骨壷までこしらえます。

その活き活きとした姿を
眺めていると

人生の晴れ舞台は
死にまつわることなのかも、と
思えてきます。



土井善晴さんの
凛とした料理以上に

明日はないかもしれない今日、
その一日を生ききる
切実さが
心に残る映画でした。












ただ、

エッセイにもあるエピソードが
ひっかかっています。



当時、寺の住職が逝去すると
その妻子は
別の僧との再婚がないなら
生計を支える援助もなく
すぐに寺を出なくてはなりません。

冷淡な慣習によって
追い出される妻は
悔しさもあり、せめてもと
住職と初めて作った古い古い梅干しだけを
こっそりと持ち出します。


この妻子の話が
映画では
主人公の人生をいろどる
単なる話題の一つとして扱われ、
(演出上仕方のないこととしても)
少なからず居心地の悪さを感じたのでした。


おそらく少し前に
この妻のように
使い捨ての物のように扱われた
女性たちが闘う物語を
読んだせいかもしれません。



『影の王』
マアザ・メンギステ著
粟飯原文子 訳
2023年2月刊


2020年度ブッカー賞最終候補作。
ご紹介ありがとうございます!

第二次世界大戦の端緒ともいえる
第二次エチオピア戦争が舞台の
アフリカ歴史小説です。




1930年代のエチオピア。
イタリアが植民地にしようと侵攻してきます。

イタリアには潤沢な重火器があり
訓練された多くの兵隊がいる。

一方エチオピアには
前時代の古びたライフルが少しと
軍備もわずか。
それでも身を賭し闘い抵抗します。




・・・わたしたちがのちの世にも
歌い継がれるように

ホメーロス『イーリアス』
エピグラフより



物語では戦いを
即興の歌と音楽で記録した
エチオピアの
音楽技能集団アズマリを模して、
声を重ね合わせ
うたうように語ります。

無念の死の瞬間も
浄化し
別の意味へと転化して
神々の世界へと誘うような歌。 



父さん。
体がひとりでに持ち上がるとき。

天に向かって伸び、
太陽の光を受けようと振り仰ぐとき。

風に煽られ上昇していき、
オリュンポスの神々が屈み込んで、

荒々しく舞い上がる体をすくって
静止させるとき。

『影の王』p268


戦況だけでなく
むごい処刑の様子を
写真撮影で記録を残したカメラマンは
イタリア軍のユダヤ人という複雑な立場、
被害者であり加害者で
彼の独白も
戦争が弱者同士の無意味な殺し合いであることを淡々と描き出します。


主人公の一人
父の形見のライフルをもつ
身寄りのない幼い少女ヒルト。
ライフルの行方が
ヒルトの人生を運命づけます。


作者マアザ・メンギステさんは
当時の写真、史料、調査をもとに

歴史の表舞台では存在せず
語られもしない女性達が

従軍して荷物を運び、兵士の料理をつくり、
薬を調合し、怪我人を世話し、死者を悼み、
性欲を満たし、戦場でも戦った

その姿、声を蘇らせます。


愛国心、欲望、恐怖といった
諸々の感情と行動を整えるための
掃き溜めのように扱われる女性達。

若い美しい、妻よ恋人よと
大切にされているようで
その実、
力と屈辱で組み伏せられ
生き延びるための気力知力を
暴力から学ぶ
いびつさ、グロテスクさ。



いくら強い女性であっても、
意志の力に限界があるのか知りたかった。
両の手で女性の自尊心を打ち砕くには、
何が必要なのか理解したかった。

・・女はがなりたて、唸りをあげ、
おとなしくなった。
だが一度たりとも頭を下げることはなかった。


『影の王』p135



女性たちが戦線に加わるまでもなく
女として生きるだけで
すでに日々戦地にいるような生活をおくっていたことまでも暴き出しているのです。

寺の妻子の話題から連想するような
遠い国の昔話で片づけられない生々しさがありました。

 
『影の王』のような
語られない者たちの目線、
立ち位置から
歴史を見直したら、
かつて学んだものとは
まったく違う姿が見えてきそうです。


歴史を学ぶ人には読んでみて欲しい傑作です。










まとまりのない連想の記事に
お付き合いくださり
ありがとうございます。




映画の画像は全てHPよりお借りしました。
皮を少し残した香ばしい里芋の炭火焼き。






滋味深いものを召し上がって
皆さまが健やかに過ごされていますように。