嘘みたいな本当の話なんだけど、
つい先日、学校でとんでもない大事件に巻き込まれた。
4時間目が始まってすぐ。
時計は4時ちょっと前。
1年生のクラスでいつものように授業をしていたら、
一人の学生が「先生!」と手を挙げた。
4月に来日したばかりで、日本語はまだ片言。
隣を見ると、隣の席の女子学生が顔を真っ赤にしてうつむいている。
あれ?泣いてるのかな?と思って「どうしましたか?」と覗き込んだら……
顔を上げようとした瞬間、首がガクンと後ろにのけぞった。
……え? 意識がない?!
ドラマならここでCMが入る緊迫感。
私は一瞬でパニックになりながらも、ダッシュで職員室に応援を呼びに走った。
駆けつけてくれたネパール人の先生が、彼女の母国語で必死に名前を呼びかける。
でも、ピクリともしない。
「救急車!」と頭をよぎったけれど、
新米の自分が独断で呼んでいいのか一瞬躊躇して、
再び職員室へ全力疾走。
私のただならぬ様子を察した教務主任が
「私が救急車を呼びます!」と男前に引き受けてくれた。
その間にも、パニックに陥ったクラスメイト数人が、
意識のない彼女を抱きかかえて階段を降りてきた。
ネパール人の先生の迅速な指示で、ひとまず会議室の机の上に彼女を横たえる。
周りの学生が「先生、冷たい……」と泣きそうになりながら彼女の腕をさすっている。
その時、ネパール人の先生がボソッと言った。
「……息してない」
はあ??? ちょっと待って???
私の脳内コンピューターがフル稼働。
【息をしていない = 人工呼吸 = 今すぐ私がやる!】
「人工呼吸します!」と宣言すると、
背後にいた校長も「お願いします!」と緊迫のゴーサイン。
私は迷わず会議室の机の上に飛び乗った。
心臓マッサージ。1、2、3、4……8回強く胸を押して
鼻をつまみ、口から息を吹き込む。
これ、彼女のファーストキスだったら、相手がこんなババアでかわいそう・・
なんて不謹慎なことを考える余裕はもちろんない。
何回か繰り返したその時。
「ゲホッ……!」
彼女が激しく咳き込んで、顔をゆがめた。息が、戻った……!
実は私、高校時代にボランティア活動をしていて、
人形を使って人工呼吸や心臓マッサージの訓練を何度も受けていた。
当時は「こんなの使う日来るのかなぁ」なんて思っていたけれど、
まさか人生の伏線回収がこんな形で訪れるとは。
あの時の自分、Good Job!!
息が戻って一安心した校長先生が「お水、飲ませて!」と慌てていたけれど、
意識が朦朧としている人に水を飲ませるのはちょっと難易度高め。
とりあえず最悪の事態は脱したということで、ここで教務主任が本領を発揮した。
「は~い、みなさん教室に戻って~。
先生も戻って授業を続けてください。
もうすぐ救急車が来ますから大丈夫!」
……いや、メンタル強すぎない?
さっきまで机の上で必死に心臓マッサージしてた私の心臓は、
まだバックバクなのに。
この落ち着き、余裕というか、もはやプロの領域。
とはいえ、教室に戻ったところで私も学生も授業に集中できるわけがない。
急遽予定を変更して、実用的な「命の授業」を開講。
日本で救急車を呼ぶときは「119番」にかけること。
電話口で何を聞かれ、どう答えるべきか。
これ以上ないリアルな教材(さっきの事件)をもとに、
必死に教えてその日の授業を終えた。
幸いなことに、その女子学生はその後大したことなかったみたいで
本当に一安心。
いやはや、日本語教師って日本語を教えるだけじゃなく、
時には文字通り「命を救う」こともあるエキサイティングな職業らしい。
私の教師人生で忘れられない一日になった話でした。