襲いかかる恐怖(岩国市→周南市→下松市→周南市) | 日本一周(分割)自転車紀行

日本一周(分割)自転車紀行

2010年、MR4F(折りたたみ自転車)で突然西へ。
東海道、山陽道、山陰道を駆ける。

そして2年後、再び自転車に跨る…

ただし、自転車走行ではなく自転車旅行。
観光も食事も目的だし、宿泊はホテル。
普段は自転車に乗らない。

これでも日本一周できる…のか?


錦川に沿って国道2号を進む。

そして標識に従って、
国道2号を南西へと進む。

しかし、しばらく走ると、
景色がどんどん田舎へと変貌していく。

山に入るというよりも、
明らかに田舎だ。

そして道も極端に狭くなっていく。

くどいようだが、
かなりの田舎道だ。


街中を走っていくわけではなく、
むしろ田んぼの畦道に近い。

周囲には田んぼや畑が多く、
一段上がった道になっている。


断言する。
ここは国道2号ではない。

どこをどう間違ってしまったのか。
今となってはわからない。


自分としては真っ直ぐ
標識通りに進んでいたつもりだったのだが…

走れば走るほど田舎道になり、
正しい道とは思えず不安は募る。

備前市の日生あたりを通っていた時と
同じような不安だ。


唯一の救いは、稀に標識があること。

目的地である「周南」の文字が見えるので、
方向は間違っていないようだ。

ひとまず真っ直ぐ進めば
いつかは着くという安心感はある。


しばらく走ると山道に入っていく。

ふらふらしながら頑張って進み、
着いた先が「欽明路トンネル」だった。


別にトンネルが珍しいわけではない。
これまで何回も通ったことはある。

他のトンネルと決定的に違うのは、
走るスペースが無いことだ。


トンネル内の道は狭い。

車が通るのがやっとで路側帯はほぼ無く、
自転車が走るスペースは無い。


代わりに段差があって、
人が通れるようにはなっている。

ただ、どう見ても歩行者用ではない。

トンネル内に設置してある
非常電話にたどり着くための非常通路だろう。


歩道と何が違うかといえば、
ひと言極端に狭い。

自転車が通れる幅ではない。


車通りが少なければ車道を走るが、
それなりに多くの車が行き交っている。

しかもトンネル内もこの前も大きなカーブが無いため、
皆結構なスピードを出している。


トンネルが短ければ車道を塞いで走るが、
どう見ても長く先が見えない。

このなかで車道を走るのは
あまりにも無謀すぎる。


なんでこうなったのだろうか。

途中までは確かに歩道があったし、
途中からもちゃんとした路側帯があった。

民家もあったので
自転車が通ることも想定されていたはずだ。


それなのに突然の自転車シャットアウト。

当然それを知らせてくれる標識なんてない。

「どうすればいいんだ…」

本気で考え、悩む。


戻るのは厳しい。

そもそもしばらく交差点らしい交差点を通っていないし、
どこまで引き返せばいいのか想像もつかない。


「結局は進むしかないか…」
ようやく覚悟を決める。

ただ、さすがに車道は走れないので、
必死の思いで段差の上を走る。


いざ段差の上を走ってみると、
思っていた以上に厳しい。

少しでもふらつくと、
それこそ車道に落ちそうになる。

それくらい狭い。
本当に狭い。


もし落ちたら本当に車に撥ねられかねない。
何とか無理やり左側に重心を移す。

壁に肩がぶつかるが、
こうして安定感を保つしかない。

それくらい狭い。


路面にはたまに電源ケーブルが走り、
凸部をを作っている。

ハンドルがとられそうになり、
また無理やり壁に肩を押し付ける。


怖いのでゆっくり走りたいが、
速度を緩めたら逆に安定感が無くなってしまう。

結局、それなりのペースを保つのが一番安全だ。


今までこれほど怖い思いをしたことがあっただろうか。

今思えば沼津過ぎのバイパスを走っていたときの方が
遥かに安全だった。

真っ暗の中、
箱根を下っているときの方が安全だった。


本当にまったく気を抜くことができない。

常に自分と自転車のバランスに
神経を最大限集中させる。

いったい何の修行だろうか。


耐えに耐え、忍びに忍び、
地獄のトンネルもようやく終わりを迎えた。

トンネルを抜けると目の前には緑が広がり、
先には下り坂が見えている。

路側帯もしっかりとある。


「ようやく…」

今まで張り詰めていた緊張が一気にほどける。
心の底からホッとする。


しかし…


その瞬間だった。


足元に金属片が見える。

そして、あっと思う間もなく
踏みつけてしまう。

次の瞬間には、
「プシューッ」と空気が抜ける音が聞こえてくる。


やってしまった…

パンクだ。



完全に気が抜けていた。

これまではそれなりに路面には気を遣っていたのに、
この時ばかりは完全に気が抜けていた。


本来この自転車には
替えのチューブセットがついていた。

しかし数ヵ月前の駐輪中に無くなってしまい、
以来、パンクに備えたことがない。


都内でパンクすれば何かしら対処法できるため、
必要性をあまり感じなったのが大きな理由だ。

特に長いこと走る予定もなかったため、
自転車に関しても何の準備もしていなかった。

しかしそれが完全に仇になった。


山口県の周りに家一軒見当たらない
山の上でのパンク。

トンネルの手前とは別の理由で途方に暮れる。


しばらく押して歩いてみるが、
これはあまりにも不毛だ。

自転車の利点を活かせる下り坂で
押して歩いているのでは先が無い。


止むを得ない。

チューブを痛めるのを覚悟して
自転車にまたがってみる。


もう空気は入っていないので、
当然のようにガタガタ振動する。

揺れが手にも響き、かなり痛い。
自転車の痛み具合も直に伝わってくる。


これはさすがに乗り続けられないので、
また自転車を降りて引いて歩く。


しばらく歩くと下り坂が終わるとともに、
左手前方に民家が見えてくる。

自転車から降りて民家を目指して歩く。


「すみません、近くに自転車屋ありませんか?」
庭先にいる人に声をかける。

50歳代と思しき夫婦が教えてくれる。
「駅の方だから、だいたい30分くらいかかるかねぇ」

どうも近くにはないらしく、
親切に道を書いてくれる。


そして、自転車旅の僕に興味があるのか尋ねてくる。
「お兄ちゃん、どこ目指してるの?」
「目標は決まってないんですが、今日はひとまず周南です」

「周南?」
「どこそれ?」とばかりに夫婦は顔を見合わせる。

隣の市のはずなのだが…


「ああ、徳山ね」
少し考えてピンときたようだ。

東広島市の中心地が西条だったように、
周南市の中心地は徳山。

もともと徳山市として知られていたため、
「周南」の名前に全然馴染みが無いようだ。

平成の大合併の影響である。


しばらく話をした後、
御礼をして家を離れる。

そして自転車屋がある玖珂駅に向かう。


道は畑の中を通っているが、
民家もそれなりにある。

普通の田舎町といった感じだ。


玖珂駅に近づくと、
それなりに街が広がっている。

そして自転車屋に着くと、
老夫婦が奥から出てきて対応してくれる。


パンク修理をしてもらいがてら話を聞く。

何でもそろそろ体力的にも厳しいので
閉店も考えているとのことだ。


ただ街に数少ない自転車屋。

「止めないで欲しい」という声が多いため、
頑張って続けているのだそうだ。


そして僕以外にも
自転車旅行の客が訪れたことは何回かあるらしい。

もちろんパンクの修理などではなく、
情報を仕入れるためらしいが。


「それにしてもお兄ちゃん、よかったわねぇ」
思わぬ言葉をかけてくる。

「これが夜だったら大変だったもの」

言われてみれば確かにその通りだ。


日中だったから
こうしてパンクの修理もしてもらえた。

パンクは自転車旅行にとって大惨事だが、
被害は最小限だったといえるかもしれない。


田舎のいい人たちと話をしていると、
前向きな気持ちになれる。

最後に国道2号に戻る楽な道を教えてもらい、
自転車屋を後にする。


どうやら国道2号はだいぶ離れていたらしいが、
玖珂駅の手前でJR岩徳線の近くに来ている。

自転車があるのは線路の南側だが、
国道2号は北側だ。


国道2号に戻ると再び南西へ進む。

しばらくJR岩徳線とともに進むため、
厳しい坂もなくそれなりに快適に走ることができる。

パンク修理してもらった影響か、
以前よりも走りやすくなっている。

気のせいかもしれないが。


JR岩徳線から離れると、
一気に建物もなくなり上り坂となる。

そして上り切ったところで
周南市に入るとともに下り坂となる。


ただ、下り切ると再び上りに。
また少し上り切ると下松市に入る。

今日の目的地は周南市なのだが、
いったん別の市に入るという不思議な形。

そして何より「下松」の読み方にも驚く。

「しもまつ」でも「したまつ」でもなく。
正解は「くだまつ」。

用宗に続く不思議な読み方である。


人名もそうなのだが、
地名の読み方は非常に難しい。

それこそ知らないと読めない名称が
いくらでもある。


坂を下り切ると下松市街へ。
あらかじめ調べてあった「ガスト 下松店」に入る。

今日はそれほど走ってないのだが、
上り坂も多かったし、やはりパンクは痛かった。

肉体的にも疲れたし、
とにかく精神的にも疲れた。

ソファーに座って休むと、
もう動きたくないくらいだ。


ただ、目的地まではあと一息。

再び自転車にまたがると、
県道347号を西へ進む。


ここからはずっと街中。

間もなく周南市へ入り、
しばらく走ると徳山駅が見えてくる。


徳山駅前には、
線路と平行して東西に商店街が走っている。

大きくはないが寂しくはない、
地方の小都市だ。

そもそも徳山駅は山陽新幹線も停まる駅であり、
山口県東南部の中心的都市である。


それゆえ、駅前にはネットカフェもある。

僕の旅ではネットカフェを多く活用したいのだが、
地方に行けば行くほど24時間営業のネットカフェは少なくなる。

ネットカフェがある駅は貴重であり、
ここ徳山駅前にあって助かった。


しばらく駅前を走り回り、
軽く食事を済ますとネットカフェで休む。

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2010年9月23日

岩国駅(岩国市)~徳山駅(周南市)
走行距離:約55km(google map)

■自然に映える五連橋
(岩国市)
■襲いかかる恐怖
(岩国市→周南市→下松市→周南市)

地図の詳細
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