昔・・・といっても、1910年ごろのイギリス、
ロンドン近郊の、とある小さな街に、
寂しい一人暮らしの女性がいました。
楽しみといえば、週末の夜に訪ねる小劇場での芝居見物でした。
そんなある日、芝居の幕間にある余興が入りました。
それはハンサムな腹話術師が椅子に座り、膝の上に乗せた人形と
おかしなやり取りをする…何の変哲もない腹話術でした。
しかしハンサムなだけではない、なんと美しい声なのだろう…と、
ひと目みて彼女は、その腹話術師に恋をしたのでした。
次の週末も、
また次の週末の夜にも、
その腹話術の余興はあり、
彼女の恋心は募るばかりでした。
ある夜、彼女はたまらず、余興が終わり幕が降りた後、
思い切って楽屋を訪ねてみました。
しかし楽屋を訪ねた彼女に、扉の向こうから聞こえてきた返事は、
「残念ですが、お会いする気持ちはありません」
という彼のつれない返事でした。
彼女はとても残念に思いながら、
その夜は諦め、楽屋を後にしました。
憧れの人と一対一で話がしてみたい・・・
彼女の願いはかないませんでしたが、
その夜限りで諦めてしまうことはなかったのです。
一ヶ月ほど経った夜、彼女は今度は一房の花を買って
小劇場を訪れました。
幕間にはじまったいつもの腹話術師の美声に思わず涙しました。
余興が終わり、幕が降りると彼女は席を立ち、楽屋を訪ねました。
こんどは、もし話すことが叶わなくても、
花束を扉の外に置いて帰るつもりでいました。
そんな彼女の強い想いが通じたのでしょうか、
「わかりました。それでは、お入りください」
という嬉しい返事が扉の向こうから聞こえてきました。
ドアを開けて入ると、控え室の中はまるで、
腹話術の舞台そのもののような演出がほどこされていました。
また奥の壁際からズラッと人形たちがこちらを向いて座っています。
そして、奥の壁の前に椅子が置かれ、ハンサムな腹話術師が座り、
膝の上には人形が置かれていました。
スポットライトだけが灯っていて、「彼」と人形、
そして椅子を暗闇の中にくっきりと浮かびあがらせていました。
胸をどきどきさせながら、彼女が、
「はじめまして・・・」と呼びかけた時でした。
突然、彼が椅子の上から床に大きな音を立てて倒れました・・・。
すると椅子の上には「人形」だけが残っていました。
その人形はじっと彼女を見つめ、
「これで分かったね・・・」
としゃべったのです。
椅子から降りた人形は、少しずつ彼女に近づいて行きました。
固まって身動きができない彼女の手前まで来たとき、
人形は自分の顎に両手をつけ、
ミリッ・・・と音がしたと思うと
一気に仮面を剥いだのです。
「これが俺だっ!」
フランス・ギャル 夢見るシャンソン人形
この歌、大ヒットしたので日本でも有名な歌手がカバーしています。
たとえば・・・この人!