女「記憶を消しにきた?」 3(全5回) | Let's easily go!気楽に☆行こう!

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女「そんなわけで、ちょっと待ってほしいんだよね。記憶消すの」

黒服「課題くらいどっかにメモっておけよ」

女「だめ。そんなの不安。メモのことも忘れちゃうだろうし」






黒服「待つってつまり、課題出された記憶が、過去48時間に

かからないようになるまでってことか?」

女「うん。ええと確かあれは二限の終わりだったから、

今日の13時ごろだったかな」

黒服「そこから48時間後……明後日の13時までってことか」

女「今大体20時だから、あと41時間くらいだね」

黒服「悠長な話だな……待ってもらえると思うのか?」

女「だめ? あたしが工場あたりを散歩してたのが16時ごろだから、

極端な話、あなたは明後日の16時までにあたしの記憶を消せればいいわけでしょ?」

黒服「二、三時間なら考えたがな。二日ってのは長すぎだ」

女「交渉決裂かあ」

黒服「そうだな。さ、一緒に来てくれ」

女「いや」

黒服「頼む。手荒な真似はしたくない」

女「あたしに指一本でも触れたら、舌噛み切って死んでやる」

黒服「…………人はそんなに簡単に舌を噛み切れないぞ」

女「じゃあそこの収納に入ってる包丁で自殺する」



黒服「どっちにしても脅しになってないな。

嬢ちゃんが自分で死んでくれるなら口封じの手間が省けてありがたいくらいだ」

女「ふうん。そうなの? それじゃああたし死んじゃうよ?」

黒服「勝手にしろ」

女「…………」

黒服「…………」

女「…………」

黒服「………………待て、降参だ」

女「………ふふふ」

黒服「お前、気づいてるな? 俺たちがお前を殺せないってこと」

女「気づいてるっていうほど、確信があったわけじゃないよ。

カマをかけてみただけ」

黒服「大したもんだよ、あんた。どうしてそんな風に考えることができた?」

女「なんか、回りくどいなあって思ったの」

黒服「回りくどい?」



女「さっきあなたが言ったでしょ? あたしは工場に入った時に、

その場で射殺されててもおかしくないって」

黒服「言ったな」

女「本当にその通り。機密保持がどうとかって言うなら、

あの時にわたしは死ぬか捕まるかしてるはず。でもそうならなかった」

黒服「運がよかっただけかもしれんぞ?」

女「またまたとぼけちゃって。そもそも、標的に同行を頼んでまで

『記憶を消す』って方法であたしの口を封じようというアプローチがそもそも不自然」

黒服「確かに今すごく面倒くさい」

女「でしょ? さっさと殺せばいいのに。菊の御紋が後ろについてるなら、

あたし一人殺したって何かしら大義は立つんでしょ?」

黒服「わかったわかった……白状する。

俺たちはあんたを生かしておく必要があるんだよ」

女「どうして?」

黒服「あんたが、南の軍事都市の出身だからだ」

女「…………」

黒服「察したか?」

女「なんとなく推測は立つけど、説明して欲しい」

黒服「はいはい」




黒服「この街に移住してきたときから、あんたは俺たちの監視下にあるんだ」

女「気づかなかった……」

黒服「まあ四六時中覗いてるわけじゃないからな、そう嫌な顔をするな。

さて、なんであんたは国に目をつけられてると思う?」

女「あたしの出身地は、不明死発生件数、割合、全国トップの街だから」

黒服「そういうことだな。あんたの故郷は、高次生命体……

宇宙人って言ったほうが分かりやすいか? 

やつらとの戦争で受けた被害が一番大きい街だ。必然、その生き残りも少ない」

女「同郷の人みんな、あなたたちに監視されてるの?」

黒服「いや、あんたを含めて三人だけかな。さすがに全員はちとしんどい」

女「なんであたしなの?」

黒服「深い意味はない。あんたが俺たち組織の御膝元に住んでるからだな。

手と目の届きやすいところにいるってことだ」

女「とんでもない貧乏くじを引いた気分」

黒服「気分、じゃないな。胸を張っていいぞ。

あんたが引いたのは貧乏くじ以外のなにものでもない」

女「やけにいろいろと親切に教えてくれるんだね」

黒服「どうせあんたは忘れるからな。この会話」

女「なるほど」




黒服「俺たち組織はなんとしても、宇宙人たちが使用している兵器の

詳細を解明したい。なにせまったく未知の技術だ。手がかりは些細なものでも惜しい」

女「それで、被害が顕著な地域の生き残りを監視かあ」

黒服「つまり、あんたはモルモットだな。この街に引っ越してきて三か月くらいだっけか」

女「それくらい」

黒服「風邪ひいて、この街の病院の世話にでもなってみろ。

通常じゃ考えられないくらいに手厚く診療されるぞ」

女「それってお得なの?」

黒服「あんたの価値観次第だな」

女「微妙」

黒服「まあとにかく、俺たちにあんたは殺せない。

ここであんたに死なれようものなら、立場的にも物理的にも俺の首が飛ぶ」

女「あなたも、随分な貧乏くじを引いたね」

黒服「まったくだよ。もう一度聞くが、その課題云々を譲る気はないのか?」

女「ないよ」

黒服「強情な嬢ちゃんだよほんとに。学校に圧力かけて、

あんたの習得単位を改ざんすることくらいならできるぞ」

女「そういうずるは好きじゃないの」

黒服「さいですか」



黒服「条件がある」

女「なんの?」

黒服「あんたの記憶消去を先延ばしにする条件だ」

女「いいの?」

黒服「いいもなにも、こっちが譲らなきゃあんたまた、死ぬって言い出すんだろう」

女「虚言かもよ?」

黒服「虚言でもなんでも、危険な橋は渡れないんだよこっちは。んで、条件だが」

女「うん」

黒服「これからあんたの記憶を消すまでの41時間、俺があんたの監視をする」

女「監視?」

黒服「具体的には、俺がずっとあんたの傍についてる」





<続く>