その日、深夜。
ドライブに出かけていた俺と彼女は
出先での時間が長くなったので
帰宅予定が遅くなりそうだった。
奇しくも帰りの高速は車の多重衝突で閉鎖。
やむなく山道を走ることにした。
こう見えても俺はドラテクに自信がある。
ラリーを短い間だったが経験しているのだ。
山道はどんどん暗くなってきたが、
月の明かりで完全な暗闇ではなかった。
「なんか嫌な予感がする」
彼女は小さくだが、俺に聞こえるように言った。
おいおい、よせよ。
彼女は少しだが霊感があると言っていたのを思い出した。
「車の運転なら大丈夫だ、ラリーみたいに飛ばしている訳じゃないし」
「ううん、違うの。運転じゃなくて・・・・いやな感じがするの。
それにこの山、出るって話聞いたことあるもん」
ふ、心霊マニアの言葉だな。俺はそう思った。
俺は夜だし、運転に集中していたが、ふとバックミラーを見たら
なにか凄い勢いでついてくるものがいる。
「えっ・・・・クルマ?」
それにしてはライトが点いていない。
それは段々距離を詰めてくる。
「後ろに何かいる!」彼女は言った。
「あれは何なんだ?」俺は何度もバックミラーを見る。
迫りくるものの影が段々大きくなってくる。
その影が大きくなったとき、それは人影なのが分かった。
月の明かりでよく見ると、それは鬼婆だった!
しかも手に包丁を持って上段に振り上げているではないか!

「うわあああっ、鬼婆だ!」俺が言うや
「早く逃げてーッ!」彼女も間髪を入れずに叫んだ。
その言葉でスイッチが入った俺はラリーストになった。
神業のごとく素早くシフトチェンジし、ブレーキ、アクセルを
忙しく交互に踏みつける。
これでどうだ!!
しかしバックミラーで見る鬼婆はさらに距離を詰めていた。
恐ろしい顔の表情までもが分かるようだった。
俺のスピードについてこれるなんて、信じられない!
ただの鬼婆ではないのは分かった。
俺は心底恐怖を感じた。
「く・・・っそ!」
恐怖のほかに屈辱感も!
鬼婆はさらに距離を縮めてくる。
なんて速い鬼婆なんだ!
もう一度バックミラーを見ると、その鬼婆の胸に
『TURBO』
の逆ステッカーが貼ってあった。

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