【怪奇】霊が見える少女 | Let's easily go!気楽に☆行こう!

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学生時代、霊感がとても強いというのが自慢のクラスメートがいました。

彼女は学校や友だちと出かけた先々で霊が見える、と言っては周囲を驚かせていました。


彼女には霊が見える、そう信じていた同級生もいましたし、まったく信じていない人も

いました。でも、彼女が「霊が見える」と言って騒ぎ出すと、誰もがみんな少し緊張ぎみに

興奮していたのを覚えています。

日常生活とはちょっと違った特別な世界、そんなものに憧れる年頃でもあったのです。


今考えると、彼女はなかなかの役者でした。霊が見える、あるいは、霊がここに来ている、

そう告げる時の彼女の表情は真に迫っていて、そういうモノを信じない人間も

納得させてしまうような勢いがあったからです。


彼女の一番の名演技はまるで霊にとり憑かれたようにその場で気を失ってしまうことでした。

でも、これは頻繁に見ることは出来ません。

一ヶ月に一度か、二ヶ月に一度か、彼女と親しい友人たちだけが集まった時に

起こる現象でした。



ある時、わたしと彼女を含めたクラスメートの5人は、揃って学校をサボったことがあります。

家庭の事情で学校近くのアパートに一人暮らしをしていたクラスメートの部屋に

みんなで集まって、内緒でビールを飲んだり、タバコを吸ったりしていました。

すると突然、例の彼女が騒ぎだしたのです。

また始まったか、わたしは内心せせら笑っていましたが、他の3人はすっかり信じてしまい、

みんなで怖々と肩を寄せあいました。彼女はクラスメートたちが怖がっている姿に

満足したように、さらに派手に騒ぎました。


この部屋に血まみれの女の人が入ってきてる。

もう一人男の人も入ってきた。

出てってよ、ここは生きてる人間の世界なんだから!!


彼女は見えない何かにそう怒鳴りました。その瞬間です。

彼女がいつもの通りバタッと気を失ってしまったのです。


霊にとり憑かれたんだ・・・誰かがそんなことを口走りました。

でもわたしは信じていませんでした。

彼女が気を失う所は何度も見ていますが、どうもウソっぽいのです。

ドラマや映画なんかで気を失ったり、死に顔が映るシーンがあるでしょう?

どんなに上手な俳優さんでも、そのシーンが長いとどうしても瞼の下で眼球が動きます。

それに彼女が気を失って倒れる場所は、必ず柔らかくて安全な場所なんです。

本当に気を失ったんなら、たまにはテーブルや柱の角に頭をぶつけてもいいじゃないですか。


でもわたしは、あえてそういうことは口にしないよう心掛けていました。

彼女が倒れると、みんな心配すると同時に妙に嬉しそうなんです。

だいたい、彼女は5分くらい気を失ったあと、ケロリとした顔で起き上がり

「霊は出て行った」と告げるのですから。


わたしたちは倒れている彼女の周りに座り込んで、その様子をしばらく眺めていました。

5分過ぎて、そろそろ目を覚す頃だと思っていると、まったく目覚める気配がありません。

10分経っても、15分経っても、彼女は目を覚しませんでした。

彼女がいつもと違うということに、わたしたちはやっと気付きました。呼吸はあります。

でも顔は血の気が失せたように青白く、本当に死んでしまったようにピクリともしないのです。

ちょっとヤバイかもしれない、みんなそう思ったのでしょう。

それぞれ大声で彼女の名前を呼びました。

それから友人の一人が彼女の頭の後ろに手をまわして上半身を抱き起こしました。

その時です。

ビクンッ、まるで痙攣したように彼女の体が大きく動き、「痛いっ!」と彼女が叫んだのです。

目を覚した彼女はしばらく呆然としていました。

それから隣りにいたわたしに自分の首筋を見せて、「何かなってない?」と聞くのです。

見てみると、ついさっき噛みつかれたばかりのような、小さな歯形が残っていました。

その事件の後、彼女は「霊が見える」と騒がなくなりました。

霊能力なんて言葉も忘れていた卒業式の間際、わたしたちはあの日学校をサボッた5人で

集まる機会がありました。

そこではじめて、あの時彼女に何が起こったのか知ることができました。


彼女が気を失って倒れたフリをした直後、何かの力にグイグイ引っ張られたのだそうです。

それは生身の体を引っ張るというのではなく、体の中心にある「魂」のようなものを

引っ張られた感じでした。

すると、本当に目が開かなくなり、体を動かすことも、喋ることも出来なくなりました。

何かの力は彼女をどんどん真っ暗な場所へ引きずり込もうとしました。

逃げ出したくても、逃げられません。もうダメだ、そう思った時、

目の前に光のカーテンのような物が現れたので、必死になってしがみつきました。

同時に首筋に何者かが噛みついた痛みが走り、目を開けると、みんながそこにいた、

彼女は淡々とそう語りました。


その話しすら、本当なのかウソなのかはわかりません。

でも、彼女が「霊が見える」と言わなくなったのは、あの日以来の事実です。








◇霊が見える人たち





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