その若さと美しさを保っている「おろち」という謎の美少女。
彼女は手首に包帯の巻かれた右手から人の心を読み取ったり念動力を使ったりできるのだ。
ある時は屋敷のお手伝い・またある時は看護婦……。
行く先々で起こる不思議な現象や人間の業からなる悲劇を、
おろちは時に見守り、時に妨害してゆく……。
彼女がどこから来てどこへ行くのか、誰も知らない
◇おろち「カギ」
気まぐれである団地に住むことにしたおろち。
敷地内で遊んでいた男の子に嘘の道案内をされ、珍しく怒りを露にする。
そのひろゆき(wと言う名の幼稚園児は、「うそつき」と呼ばれて嫌われていた。
カギっ子であるひろゆきは、関心を引くためか両親にまで嘘をつき、こっぴどく怒られる。
隣の部屋の足の悪い寝たきりの恵美ちゃんの真似をして傷ひとつない足に包帯を巻いて
さすがに団地のみんなもおろちも悪感情を抱いた。
そんなある日、留守番中のひろゆきはベランダを越えて隣室を覗きに行く。
そこで隣室の恵美ちゃんが母親に首を絞められて殺されるところを目撃してしまう。
驚いて倒した植木鉢の音で母に気付かれ、鍵まで落としてしまった。
帰宅した母親に隣室のことを訴えるが、普段の言動がたたって信じてもらえない…。
翌朝母親は恵美の母に息子の酷い嘘のことを話してしまう。


恵美の母の表情の変化に気付いて怯えるひろゆきを置いて、母親は仕事に出かけてしまう。
幼稚園の先生も誰も信じてはくれない…。
翌日、恵美の母に「帰りが遅くなるのでよろしく」と挨拶をして仕事に行く母。
きっと恵美の母は自分が落とした鍵を持っているに違いない、自分を殺しにやってくるのだ。
部屋中の物をドアの前に置いてバリケードにするが、忘れ物を取りに帰った父親にバレて
酷く怒られてしまう。唯一の武器だったパチンコも取り上げられてしまう…。
父親が再び出かけた後、ひろゆきは団地の廊下から自分の部屋を見張ることにした。
合鍵を手にした恵美の母が、ロープを持った父親と一緒にひろゆきの部屋に入ってゆく。
「だれかたすけて!ぼく殺されるよう!」叫びながら団地の敷地を駆けてゆくひろゆき。
近所の主婦に訴えかけても信じてくれない。おろちはその様子をただ見ていた。
主婦が恵美の両親を見かけて話しかける。「恵美は施設に入れましたの」
逃げるひろゆきを追ってどこまでもついてくる夫婦。
ひろゆきは交番で、電車内で、バスの中で次々助けを求めるが、
上手く夫婦が丸め込んでしまって誰にも信じてもらえない。
とうとう捕まってタクシーに押し込まれてしまう…。
ひろゆきが必死に思い出しながら窓に書いた「たスケて」という文字も鏡文字となって
気付いてもらえない。
恵美の母がそれに気付いてこすって消してしまった。
夫婦は恵美の部屋にひろゆきを連れて帰る。
「恵美を殺したんじゃないの、恵美は自分の薬をいっぱい飲んでしまったのよ、
いっぱい飲めば早くよくなると思ったからだわ!
私が帰ってきたらベッドの上でのけぞっていたのよ!!死んでいたのよ!!
生き返らないかと揺さぶったり吐かせようとしているところをあなたに見られたのよ!!
みんな恵美が邪魔で殺したんだと思うわ、主人は昇進して海外に行くことになっていたのよ、
恵美が死んだということだけでも取り消されてしまうわ!!」
父親は恵美は冷蔵庫の中だと言い、ひろゆきの部屋の伝言板を差し出して
「遊びにいってきます わたなべひろゆき」と書くのだと強要する。
書こうとしても字が思い出せないというひろゆきに見本の文字を書いてやる父親。
書き終えた伝言板を母親が合鍵でひろゆきの部屋に置いてきた。
夫婦でひろゆきを縛り、猿轡をかませて放置する夫婦…。
すっかり日が暮れた頃、おろちはひろゆきのことを考えていた。
幼稚園の先生に会って彼の話を色々聞いてきたのだ。
ひろゆきの部屋の明かりがついていないことを不思議がっていると、そこにひろゆきの両親が。
ドアの外で様子を伺うと、ひろゆきはまだ帰って来ていない、伝言板があったと声が聞こえる。
隣室の恵美の母をたずねて息子のことを聞く母。だが彼女も知らないと言う。
ひろゆきの両親は団地の外へ息子を探しに行ってしまった――。
おろちはひろゆきの両親の元へ走り、伝言板を見せてくれと頼み込む。
「おかしい……私幼稚園の先生にもお聞きしましたがひろゆきくんは……」
恵美の部屋で大きな石をぶつけてひろゆきを殺そうとする夫婦。
そこに右手の力でドアを打ち破ったおろちとひろゆきの両親が入ってきた!
こうして危ないところをひろゆきは助かったのだ。
「ひろゆきは自分の嘘で苦しむことになったが、最後に無意識についた嘘で助かった…。
ひろゆきは自分の名前以外はほとんど文字が書けなかったのだ」
それからも決して「うそつき」の嘘は直らなかった。
でもおろちは「うそつき」を憎めなかった。
やがて「うそつき」が立派な大人になるような気がして、この団地を後にした――。
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