すべてはここから始まったのだ。
ここから・・・。
「美容院でお仕事をされていると仰っていましたね。
では、お休みは火曜日とか平日ですか?」
「いえ・・・、アルバイトなので特に決まっているわけでは
ないんですよ。藤川さんはお休みの日とか、どうすごされていますか?」
「車が、というよりドライブが好きなんですよ。
車で高速を走らせて、到着した先の雰囲気のある喫茶店で
コーヒーを飲んだり、その近くの温泉につかりに行ったり」
「車を持ってるんですね!いいなぁ、私もそういうところで
紅茶とケーキでも食べたり、ちょっとした観光ができたら
最高ですね」
正彦と沙織は会話が途切れなかった。
正彦は会話がごく自然に繋がっていることが嬉かった。
しかし1回目のフリータイムが終了し、司会が
「それでは今、話をされた方とは別の相手と会話してください。
2回目のフリ-トークです!」
合図がなった。
沙織のもとにすぐさま男が二人ほど向かっていった。
正彦は別の女性と会話をしたが、沙織が気になる。
ふっと、正彦が沙織に目を向けると沙織も
他の男性と会話をしながら正彦に視線を送っていた。
三度のフリートークが終わると、スタッフから紙を渡された。
そこに自分が今日のパーティーで一番気にいった異性の
ネームプレートの番号を書くのだ。
そして男女ともに一致した場合、カップル成立として発表される。
正彦は沙織の番号を書いた。沙織も正彦の番号を書くだろう。
正彦は、すでに心の中でガッツポーズをしていた。
司会者が「それでは発表します!ええと・・・
今回は非常に人数が少なかったためでしょうか、
一組もカップル成立になりませんでした」
ガアアアアン!
マジですか?
正彦は狐か狸に化かされたような気がした。
司会者が閉会を宣言した。
まわりの客が一斉に席を立つ。
沙織は椅子に座ったまま身支度をしていた。
正彦はその沙織のもとへ行き
「もう少しお話がしたいのですが、
もしお時間がありましたら、
お茶でも行きませんか?」
一応、声だけかけてみた。すると、
「はい、大丈夫です!」
あれ?簡単にOKが出た・・・。
正彦は少し混乱気味であった。
パーティー会場に入る前に、うまくカップルになった場合を想定して
事前にそれほど遠くない場所に雰囲気のある喫茶店の場所を
すでに確認していた。
その喫茶店に向かいながら
「実は僕、最後のカードで宇津井さんの番号を書いたんですよ」
正彦は佐織が意中の人であったと、それとなく伝えた。
すると沙織から返ってきた言葉は意外なものだった。
「実は私、番号を書かずに白紙で出したんです。最後の発表で呼ばれて
大勢の人の前に立つのって、結構恥ずかしくありません?」
沙織は、かなり前に参加したとき、最後の発表で呼ばれて
人前で立ったことが嫌だったと言った。
「藤川さんも発表のとき、前に出て並んだとき恥ずかしかったでしょ?」
しかし、正彦はまだ今回で2度目の参加であった。
喫茶店での会話もやはり順調だった。
雰囲気もいい。
となればデートの約束をとりつけなくちゃ、と
正彦は沙織の休日事情などを聞きたく、美容院のこととかを聞き始めた。
しかし、正彦のツッコミが鋭くなると沙織の口調が何となく重い。
それまでの会話が順調だっただけに、正彦は不思議そうな顔で沙織を見ると
「御免なさい。美容院でアルバイトっていうのは嘘です。
仕事は・・・モデルをしているんです」
「えっ、モデル?」
聞くと以前は展示イベントのコンパニオンや雑誌モデルをしていたと言う。
今はチラシや、広告系の仕事が中心だと話した。
それで、髪の色や手入れが、先ほどのパ-ティーで
並んだ女性たちと比べて違うのが合点がいった。
しかし今日の沙織は、化粧はあえて抑え気味にしていたので
そこまで驚くほどのことでもなかったが、
後日、デートの際に沙織が本気の化粧をしたときに
正彦は、ビックリすることになる。
喫茶店を出ると、もう外は暗くなり始めていた。
喫茶店での会話は思った以上に長くなっていたようだ。
正彦は、そのまま食事に誘うと沙織も同意した。
時間が経つほどに二人の仲が近づいているように感じた正彦は
最近では間違いなく、一番幸せな時間を過ごしていた・・・。
だが、夜の帳が下りた新宿を歩く正彦と沙織の後ろから、
二人に気づかれないようについてまわる黒い影があった・・・。
影は、一つではない。
何人もの男たちであった。
その男たちは、正彦たちと一定の距離を保ったまま
ただ黙ってついていった。
<第3話 終わり。>
沙織とつき合いはじめた正彦であったが、
沙織には、人に言えない秘密があったのだ。
そして正彦と沙織についてまわる黒い影の正体は?
魔の手は沙織の近辺から、正彦にまで及びはじめ、
この後、まったく予想だにしない恐ろしい展開になるのだった!

【連続小説】 薔薇の棘 (バラのとげ)
未完。
※この物語は、実際にあった話に基づいて書かれています、
たぶん・・・。