本居宣長を書いた小林秀雄が、大学生の夏季研修の講演で、補記を書く話をされましたが、講演でその入りを聞いていましたので、私は先にこの補記を読んでみました。
小林秀雄は、補記で哲学者プラトンの『パイドロス』を引用して宣長の考えを解説してくれています。文字の出現で如何に意思の伝達が難しくなったかを改めて認識させられました。
今までの私の認識は、口述よりも文章で人に対しては伝達させた方が正確で間違いないと考えていましたが、必ずしもそうではないことを気付かせてくれたことは貴重な小林秀雄の忠告でもあります。
そういえば、ソクラテス、釈迦、キリストといった人類史上の大人物は皆、己の考えをオラクル(口伝)で伝えています。やはり、文字にした段階でそのニュアンスはその人から離れて行き、あとは文字が一人歩きし始めるのでしょう。読む人によって解釈が代わってゆきます。
仕事においても、メールなどでやり取りしたときに誤解を生むことがありますが、それはやはり相手と対面して話した場合であれば避けられた内容であることがしばしばあります。やはり、相手のことに触れることとか、自分の思いを伝えるときはメールのような形式は避けるべきかな・・と思います。実務そのものの報告などであればメールの方が記録としても残りますのでそれはそれで手法として良いかと思います。 by 大藪光政