タクシーに乗ったおかげで、閉館前になんとか埋木舎に入ることができた
彦根城の外堀の淵に建つ埋木舎は井伊直弼が17才から32才までの
青年時代暮らした屋敷である。
十一代藩主・直中の十四男として生まれた直弼
「世の中をよそに見つつも埋もれ木の埋れておらむ心なき身は」という歌を詠み
この屋敷を「埋木舎」とよんだ。
直弼は文芸に秀でた人で、若いながらもこの小さい屋敷でひっそりと
禅、居合、兵学、茶道(代表作『茶湯一会集(いちえしゅう)』)など教養を積んだ。
もし、井伊直弼が家督を継ぐこともなく、好きな道で生きることができたなら
もっと直弼らしい人生を歩んでいたのかもしれないと思った。
このあと、走れ走れと急ぎ足で玄宮園と彦根城に行く。
昔と変わらないその景色は懐かしく、若かりし頃を思い出す。
しかし、感傷にひたっている場合ではない、もう夜の帳がおり始めた。
早足で彦根城への坂道を駆け上がる・・・・・いや、駆け上がるというより
一歩踏み出すのに息切れがして、このまま倒れるかもと大袈裟な私は
ヒーコラヒーコラトロトロと上るのだった。
「城は遠くから見る主義」と言い放ったワタクシは、妹夫婦が天守閣内の見学に行って
いる間、ベンチで力を取り戻そうとグッタリしていた。
ライトアップされた彦根城はきれいだ。
しかし、気温は下がり、風が吹きすさぶ中「妹夫婦よ、城よりであえーであえー」と心で
叫んでいた。
かえり道は、もうすでに暗く、忍者がどこで狙っていてもおかしくないような
怪しげな雰囲気だった。
つづく