ファンタジー・オン・アイス2024幕張公演2日目の生放送がありましたが、ごらんになりました?

今年のFaOIの出演者は、昨年までと大きくちがうよなあ、というものです。ランビエール、ハビ、ラトデニ君、知子ちゃんなど今年も全部インというかわらない点もありますけど、変化のほうが眼につきます。

これまでは2016年をのぞき全公演に出演していた羽生君が前半のみです。また、昨年までレギュラーだったジョニーがいません。

アダム・シャオ・イム・ファ、上薗恋奈ちゃん、中田璃士くんのような新しいメンバーもいます。青木祐奈ちゃんがひさしぶりにはいっていたのもうれしいことです。後半ではジュンファンも出演します。ジュンファンはみたい。今年の後半はテレビ放送が決まってませんけど、ランビとシゼロンが共演すると発表ありましたし、フィアギブも後半だけです。友野君もいるよね。女子は知子ちゃん以外はたぶんまともに見ないのでしょうけど、後半一公演でいいから放送してくれませんかね。

で、昨日の放送分の前半のラスト3演目だけちょっと書いてみます。

すごくなかったですか。これぞ氷上のアート、という濃密この上ないものでした。

 

ランビエール Ne Me Quitte Pas(行かないで)

まずランビのNe Me Quitte Pas(行かないで)ですね。久しぶりにみました。これ、ランビが引退したシーズンのExだったもの。

古い動画ですがはっておきましょう。

 

 



意味はわからなくても歌とピアノだけでなにやら切なくなる曲ですが、滑りがはいるともうまあ。この古い動画でも十分に感動的なものですが、昨日のほうが明らかによかったのでは。

おそらく緩やかさがさらにくわわり、やるせなさをましたということじゃないかと。昔の演技ではもがいて抵抗してるのか?なんて思ってたんです。たとえばスピンのところで全力でまわってません?

だけどこの歌、心の底から嘆いてはいても、泣き叫んじゃいませんよね。この苦痛は叫んだりしてもいやされるものでも気が紛れるものでもなんでもないのです。

昨日の演技はこの音楽の世界をさらに追求できたものじゃないでしょうか。全体的に全身の力は前よりもさらに抜けています。だけど音楽とともに指先に力がこもったり、ふっとぬけたり。スピンはやはりみどころではありましたが、力一杯まわってるのではなく、さらに音楽と一体化したというか。音楽があらわす心の世界、なんともいえない絶望と悲しみを見せてもらったような気がします。この演目の時点ですでに泣いていた私...

2010年よりFaOIにずっと出続けているのはランビだけです。この濃厚な世界をあと何度見られるのだ?なんて思いにもかられた演技でした。39歳ですねえ。まだまだみたいスケーターです。後半もすばらしいものでした。

羽生君のダニーボーイ

これも見るたびにかわります。いや、羽生君の演技って演技のたびにちがうのがはっきりとわかります。大きなテーマは同じのはずですが、少しずつ新しい要素がくわわってきて、また違う見方をしたくなる。だから見られるかぎりは全部みたいって思ってしまう。

同じスケーティング巧者でもランビのスケーティングとは大きくちがいます。さらにエアリーですね。会場でみたら滑る音は当然きこえるわけですし、実際、notte stellataのときには氷を削る音がはっきりきこえます。だけど今回のテレビ放送ではあまり聞こえなくて、氷から1mm実は浮いているのじゃないの、なんて思いつつみました。少なくとも、裸足やバレエシューズで踊っている中、一人トウで立って踊っているような感触です。

あとランビってヨーロッパをしょってるところあるじゃないですか。今回のシャンソンもそうだし、ポエタ、四季などなど欧州の歴史がつくってきた背景を感じるというか。曲のもつ背景

ダニーボーイはもともとアイルランド民謡で、そのキース・ジャレットのジャズバージョンを使っているわけですが、ヨーロッパとか、ジャズとかを特に感じるわけではありません。キースの演奏がニュートラルな感じがするから、というのもあるのだろうけど、振り付け事態が元がアイルランド民謡だからとか、ジャズ版だからなどを意識してますまい。


ただこの曲をつかって、羽生君のスケートでどういう世界をつくりだすのか。

それに専念した振り付け。そして振り付けがこしらえた土台をもとにどんどん発展させていっているのがこのダニー・ボーイでしょう。

羽生君にはいかにも日本的なものもありますが、これはスケーターの文化的背景は意識していないですね。もちろん見ている人の文化的背景、曲/スケーターに対する思い、感性によって感じ方は大きくちがってくるはずです。

中央が現在で左右が過去と未来にわかれる、というもともとの構想がどうなっているのかは残念ながらテレビではわかりませんね...うううむ...やはりスケート場にいって生で見るべき演目なのでしょう。

この演目の演目のテーマは希望だそう。とはいえ、徹頭徹尾、躍動感と期待に満ちた明るい希望というものではないような。現在になにかがあるのじゃないかと。冒頭、過去の地点にいって手を差し伸べますが、その後、現在の地点であまりさえない表情で自分を抱えこむ仕草をしています。冒頭はおそらく現在の中央から過去のステージに向かうことが多い。未来のステージにいってもおそらくリンク中央の現在の地点にもどってきますよね。トウループ跳んだあたりはたぶん中央。

優しい心安らぐ過去は現在で分断されてしまっているのではないか、だけどたぶん、Danny Boyの歌詞を知っているせいにちがいない。出征する息子/彼氏への別れの歌といわれているあれです。次にはるのがエルヴィスの歌で英語と訳詞がついているものです。

 

 



そう、反戦のメッセージもあるかもしれない、ととれないこともない。なにげない幸福感に満ちた過去が現在のおこっている戦争できりさかれてなくなってしまったわけですから。そして歌詞こそない音楽でも、デイビッド・ウィルソンが振り付けるときにまったく念頭におかなかったなんてことあるかなあ...

ただ、反戦の滑りだけでとるのはもったいないような気もします。

話を振り付けにもどすと、

トウループ、スピンのあたりから未来のステージでもすべっているような。ループ、ディレイドアクセルはたぶん中央よりで跳んでるのかな。

スピン、ジャンプは変化の基点として使われているかな。ループをとんだあたりから表情がちがいます。冒頭にくらべてとてもやわらかい。ディレイドのあとは明らかに未来の地帯にすべっていってますし。

そして未来と現在と過去を横断するような滑りがあり、未来にむかって祈るような動作があり、どんどん柔らかい表情、動きがでてきて、最後は希望がはっきりと現れる。すばらしい演技でした。

期間限定の動画をはってみます。

 

 

 


notte stellataですべったものですが、曲の解釈というか、表現が今回とはかなりちがいました。特にラストですね。おおお。こうきましたか、というところです。少なくともラストはFaOIのほうが好きかな。FaOIの動画も公開してくれるといいのですけど!


見終わった時、口元がほころんでいました。うん、希望。本当にそれを見せてもらいました。


パパシゼのバッハ

前半のトリはパパシゼでした。濃厚この上ないのが2本続いた後も見劣りするどころか、また別の世界を見せてくれたのはさすがでした。

紺の衣装ですべっているのもみたことがあるのですが、4ヶ月前も今回と同じ衣装ですべっているのがあるのでそれをはっておきます。

 

 



紺の衣装より今の方(動画の衣装)がいいのじゃないでしょうか。少なくとも私は、コンテンポラリーダンスというか、モダンバレエというか、その雰囲気を持ち込んでいるこちらの方が好きです。体のラインの美しさはどちらもたっぷりおがませてくれますけど。

シンプルな衣装が兵士を思わせる、というコメントをみましたが、自分としては、モダンバレエの雰囲気にあわせたもの、という説をたてたいです。

ベジャールあたりからはじまったお姫様や妖精を連想させるチュチュから装飾のないボディ・タイツやら肌色の衣装などごくシンプルで体の線をしっかりみせる衣装で身体の動きを見やすくし、堪能させるといった動きがでてきて、コンテンポラリーにつながっていきます。 

この演技、何度見ても楽しんでいますが、物語はいまいち浮かばないんです。みなさんはどうですか?

あるような気はするのだけど、浮かばないので、物語をつける必要なんてないよね、と自分にいいきかせてみてます。というかいつもパパシゼはそうしてみてしまっているような。

ただただ目が離せないというのがぴったりでしょうか。そして何度もリピしたくなる。


リフトを含むこの組独特の動きをみていると、まだまだフィギュアスケートを含むダンスにはできることがあるのだな、って思ってしまいます。

しかし、実に伝統的な演奏をしているバッハの音楽がモダンに聞こえるっていう不思議さ。この演目みてると天にむかっていくってこんな気持ちなのだろうか、なんて思ってしまうんです。

前半をしめくくるすばらしい演技でした。ところでこの振り付け誰でしょう?ご存じでしたらぜひ教えてください!