百音ちゃんが四大陸のエキシビションで、昨年のプロだったエデンの東をすべっています。
百音ちゃんとエデンの東といえば、という演技を二つはってみます。
思わぬところで転倒はありますが、すてきじゃないですか?でだしからして、とてもたおやか。
エデンの東は旧約聖書のカインとアベルの物語を下敷きにしいた親子三代の物語です。といっても原作をちゃんと読んでいない者にとっては、ジェームズ・ディーン演じる映画 父アダムの愛を求めるキャルの葛藤、反発、和解の物語です。モチーフの兄弟間の物語ももちろんでてきます。キャルが出奔して売春宿の経営者となった母親と引き合わせたために衝撃を受けて軍に入隊して戦死してしまう弟アロンの話もでてきますが、親子の葛藤のほうが印象にのこる話かしら。アロンのエピソードは葛藤を深めたものといっていいので。ジェームズ・ディーンの映画でもおなじみの物語です。
音楽は映画ではなく、1980年代のドラマのものですが、エデンの東といえば、まず誰もが町田君の名前をあげるんじゃないかしら。これはホントに好き。振付はフィリップ・ミルズ。町田君といえば、ミルズ作品がベストですよね。他に火の鳥、ヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲、第9があります。
二つ演技を張ってしまいます。次の演技はソチ代表を決めた2013年の全日本です。
4T3T 3A 3Lz
冒頭の思い詰めたような表情からして、キャルの物語をあらわしているのだなと想像がつきます。そして握りこぶし。ふふふ、「表現力の町田」ですって。その通りです。この振付、あらためてみると内面の葛藤をうまくあらわしているのを強く感じます。そして滑走をはじめたところでそこからなんとか抜けだそうとする努力というか、奮闘する姿というかを思いうかべてしまう。4T3T決まったところで少し展開がちがってくるかな。大豆先物取引でうまくいったあたりだろうかとか勝手に物語をつけてます。でも3A跳んだあたりからまた展開がちがいますよね。キャメル遅いぞ(笑)と思いつつ、フライングシットスピンが続いたあたりで、父に取引を批判されて、絶望感からアロンをけしかけて母親とあわせるところあたり、もがきの渦にはいっているのか?なんて思ったり。3Lzあたりでまた展開がかわりますね。町田君の3Lz、そういえば結構好きだった、と今更ながらに思い出しつつみました。なんというか、すっとするアウトサイドエッジだもの。続く、ステップシーケンス、すてきじゃないですか。「運命は自分で切り開く」まさにそれ。やだ、泣けてきました。そしてコンビネーションスピンから印象的なラストのポーズまでの流れもすてき。「20年間のスケート人生の軌跡」なんてアナウンスがはいりますが、ほんと、すばらしい演技でした。
たぶん下の演技が一番いい点をだしたもの。全日本で少々みられたアラが解消されて、もう少しで100点に届くという演技でした。
うん、全日本よりさらによい。強いていうと回転数が課題でしょうか。ポジショニングはきれいなんですけど。レベルを落としているんじゃないかしら。気になったのでプロトコルを確認したところ、やはりレベル3でした。あれ、気にならなかったラストのコンビネーションもレベル3なんだ。でもそんなの気になります?
どんなスピンもそうですが、とくにキャメルってポジショニングと回転速度がすごくきになることが多いスピンです。軸足で膝のところがまがっていたり、あげている脚の角度があれ、というかんじだったり、膝ののびがいまいちだったり。柔軟牲の問題もでるのかなあ。
どうでもいい話をついでに書きますと、フィギュア沼にひきずりこんでくださったロビン・カズンズのキャメルスピンはすばらしくきれいでした。しかも両回転をまわれます。速度は今みたらおどろくべきものを考えると、キャメルと他のスピンは速度がちがうのでやはりキャメルはまわりにくいんでしょう。
未だに自分にとってはフィギュア王子というとまずうかぶのがカズンズだったりします。クラシックバレエの王子が氷の上で踊ってる、ってびっくりしたのをおぼえてます。ロイヤルバレエ団に合格していたような人ですから、その感想はあたっていたわけです。すばらしくポーズがきれいで音楽的で、しかも当時発売したばかりのマイケル・ジャクソンのOff the Wallでエキシビションをすべるようなセンスもそなえた人でした。カズンズのおかげで洋楽をきくようになりました♪いや、父の趣味で英語の歌はきいてたんです。ドリス・デイとか、ナット・キング・コールとか、1930年代から1950年代ぐらいのミュージカルとか。だけど、いわゆるコンテンポラリーはOff the Wallがはじめてでした。カズンズはフィギュアと洋楽を教えてくれた恩人といえるかも。
カズンズのキャメルの美しさは次でみてくださいませ。
いったいどこまでそれるのだ、というのになってしまいましたが、百音ちゃんにもどります。演技をみていると、柔らかな腕の使い方のせいか、キャルの物語、とは思えないブログ主。葛藤というより柔らかさと優しさをかんじます。鈴木明子ちゃんの振付ですね。
映画ではジュリー・ハリスが演じていた優しいエイブラのほうを思い浮かべています。この見方は、大好きな青木祐奈ちゃんの演技でも同じでした。アーロンの恋人のエイブラはキャルを受け入れ、優しく接する唯一の存在です。実はキャルと同じ悩みを抱えたことがあり、それを克服して現在は家族仲は良好となったからでしょう。同じ葛藤、だけど、もう少し対処が柔らかいといいますか。一時、破壊的な方向にむかった心の動きとそこからの解放というキャルほどドラマチックではなかったこともあるのでしょう。だけど、魅力的だなと思って見ました。
百音ちゃんがどういう経緯でこの曲を選んだのかは知りません。本人が希望したのか、それとも振付の鈴木明子ちゃんが提案したのか...シンドラーのほうがインパクトが強く、ステップアップした表現ができていますので、一年で表現力も大きく伸びたということなんでしょう。町田君にしたって、エデンの東の表現にたどりつくまで紆余曲折があったわけですから、百音ちゃんの今後を楽しみにしたいという意を改めて強くしたのでした。今のかんじだと、知子ちゃんと演技の方向性が似てるかな。たんねんに音をあつかってていねいにすべってるところとか。とはいえ3Aとか4回転に挑戦するつもりのようですね。怪我をしませんよう。
ついでに、ばかりですが、お気に入りの青木祐奈ちゃんのもはっておきます。
町田君の作品に感銘をうけてこの曲を選んだとのこと。ただ、ジャンプ、スピンといったエレメンツを物語の切り替えとして用いて、町田君の全作品の中でもエデンの東はとりわけ印象的な作品となったような物語性をもたせるというやり方はとっていません。だから「表現の」というコメントがこの演技でつくことはないでしょう。
それでもこの演技は大好きです。現地でみたから、というのもあるかもしれません。リンクの使い方がなかなか上手なんです。あと、滑りは観客席でみたほうがよくわかりました。この前後ですべりがいいなあと思ってみたのは、祐奈ちゃんと川端さんの二人でした。
体格に恵まれた選手というのではありませんが、きれいな身体の使い方しますよ。エッジもていねい。基礎をきっちりたたきこまれたのでしょう。スピンのポジショニングもきれいじゃないですか?
物語性は強くないけど、希望がふーっとわいてくるような優しさを感じる演技。
2019-20年の右足首の骨折がなかったらねえ...3Aも練習していて、いいかんじでとんでいたと推定できるコメントが都築章一郎先生からでているだけに惜しくてなりません。
4月から4年生のはずです。大学卒業と同時にフィギュアスケートを離れるのかなあ。怪我がなかったらもっとできた選手だったにちがいありません。去年の全日本でおととしのリベンジははたせたはずですので、今年のもしかするとラストになる全日本ではこのエデンの東以上の演技をみたいものです。
追加でミシェル・クワンの演技を。やはり同じテレビ版のエデンの東を使っています。
実はこの演技、はじめてみました。このころ、女子フィギュアをオリンピックぐらいしかみてなかったのです(^_^;) なんというか面白みを全然かんじなくて。つまり、クワンが強かった時代をほぼ知りません。たまになにかのはずみでみたとしても、ちらみして、好きになれないとテレビを消していたような。
男子はみてましたよ。ヤグディンとプルシェンコの争いが実に面白かったです。二人だけ別次元でしたし。あとアイスダンスはやたらに力をいれてみてました。といってもNHK杯だけですけど。NHKの恋人のような存在だったアニシナ/ペーゼラが大好きだったんです♪ソルトレイクでは不正ジャッジ疑惑がおきてましたけど、あんなへんな細工などしなくても、アニシナ/ペーゼラが金メダルに見えましたけどねえ。
女子は興味ひかれるところがなかったんですよ。クワンの全盛期=女子を観なかった時期、といっていいです。
ミシェル・クワンの全盛期は1995年ぐらいからで、WCでは1996年の金をはじめとして、2004年までに金5度、銀3度、銅1度となんと9年間も表彰台をはずしたことはありません。オリンピックは長野で銀、ソルトレイクシティで銅。銀盤の女王と呼ばれていました。
これも何度も聞いたぞ、といわれそうですが、クワンの滑り姿勢が好きになれなかったのです。お尻をぷつんとだしてみえるもので。この演技の滑り姿勢も好きにはなれません。村主さん解説で「姿勢をきちんと保っているのがすばらしい」といってますよね。で、たしかによくすべっているし、ジャンプ軸もぶれがない。背中がものすごくまっすぐでやや前傾気味にすべるから、お尻がでてみえるにちがいない。この滑り姿勢、キャロル門下独特じゃないかしら。よくすべっているので、理論的にはおかしいものじゃないのはわかりますが、好きかきらいかときかれると、ためらいもなく、きらいと即答します。キャロル門下で好きな滑りってデニス・テンだけだわ、とまたもやいつもの感想を抱いてしまいます。気にならない人は気にならないのかもしれません。
スピンのシットはお尻が高いように見えますのでポジショニングの問題が今なら問われそうですが、このころは減点はされなかったんでしょう。個人的にはジャンプに入る前の姿勢も気になります。
姿勢が気になりすぎて、ニコライ・モロゾフのクワン評「心で滑る演技、見る者の魂に響くような演技が出来た女子で唯一の選手」はちっとも理解できていません。クワンの表現のよさは自分にはわからない、というのが正直なところです。ミスをしないで点数のでるところをていねいにつみかさねていく優等生の滑りにみえるんですよねえ..つまり、点がでるのはわかるけど、自分のツボにまったくはまらないのです。表現として興味をひかれるところや連想してあれこれ物思いを感じずにはいられないとか、泣けてくるとかいうところはない。町田君の物語性にとんだ表現はいうまでもなく、百音ちゃんやら祐奈ちゃんがみせてくれる優美さ、優しさも感じません。アメリカってこういう優等生的というか、とにかくミスのない演技っていうのにこだわるのだろうか、というつまらないことしか浮かびません。
そんな私でも圧倒的にすばらしいと思う点が4点あります。
1.着氷。すばらしくないですか。コンビネーションはそれほどでもないとはいえ、単独であれば、きれいな姿勢でおりてきます。しかも2Aなんてなめらかにすべります。
2.後ろであろうが横であろうが上げたときのピンとのびた脚の美しさ。キャメルスピンでも横に上げてもレイバックでも美しいですね。
3.エッジ。ていねいにあつかってます。だからこれだけすべるのでしょう。ステップシーケンスでなにかかんじるというのはないのだけど、ていねいだなあと。
4. 圧倒的なスパイラル。クワンといえば、これを見ずになにをみる、といっていいのがスパイラルです。これは文句のつけようがないでしょう。ものすごい距離を美しい姿勢で実になめらかに滑走します。もしクワンをごらんになったことがないなら、上の動画の2:50ぐらいからぜひぜひごらんください。最上級の美しさです。
表現を理解できるかできないかは観ている人とその演技との相性みたいなものがあって、ほぼ理解できていないに等しいです。だけど、滑り姿勢は好みでないとしても、まちがったおかしな癖のある滑り方ではなく、技術的に優れたスケーターだなあとつくづく感じた次第です。
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お詫び
申しわけないです。「エデンの東」という同じタイトルで二つも投稿してしまってます。そのつもりはなかったのに投稿時刻を変えてしまっていたようです。なにをやってるんでしょ。
ちがいは、ミシェル・クワンの項があるかないか、だけです。それ以外のものは全く同じです。いいねをいただいてしまったので、かたほうを削除せずに二つとも残しています。わざわざ両方にいいねをくださった方まで...おおまぬけなことしてごめんなさい。
クワンをいれたのは、偶然、他の3人とまったく同じ曲をつかっていた動画をたまたまyoutubeでみつけてしまったからです。上の文で書いているとおり、クワンって好きなスケーターでもなんでもなくて、新たに動画みても表現の面で感銘をうけたところはありません。だけどテクニックとしては以前は気がつかなかったよさがみえてきて、興味がわきました。全面的に好きとは思えなくても、ここは好き、ってありますねえ。
