この記事、書くか書くまいかで迷ったものです。ドーピング問題に加えて、ウクライナ侵攻の問題があって、反発を感じる人もいるだろうと推測がついたからです。実際、そういうコメントもいただきました。

とはいえ、個人的には楽しみました。ロシアという国の国内外にむけてのプロパガンダなのだろうなあと思いつつも...国/その傘下にあるフィギュア連の思惑はともかくとして、演技としてはかなり面白いものがありました。現在の状況は、スケーターの責任ではありません。


ロシアは全体としての基礎がちがうというか...個人差は大きいですが、相対的にすべりがきちんとしている選手が多いのは小さい頃からさんざんコンパルソリをやるからでしょう。あと、バレエ、ダンスが必須で、とくにバレエは基礎からたたき込んでいますので、音楽を無視してすべっているというのは基本的にあまりないし、形がきれいな人が多いし、表現の意識も感じられます。よくもわるくも他の国ではありえないなあ、みたいなものもけっこうあるけど、それは選手の個性といえないこともないだろうし。

もちろん、高難度ジャンプを求めるあまり、エテリ組をはじめとする氷上を下回るのはどうよ、と思いますよ。だけどそれはアメリカも、日本も一部の選手はやっていることです。そしてロシアには、たとえばリーザの3Lzのように、明確なアウトサイドエッジ、高くしかも軽やかというすばらしいジャンプも存在するのです。完成度を考えず、高難度ジャンプを着氷したらよし、とする点数のつけかたに根本原因があるのじゃないでしょうか。なんでもいいから、多回転ジャンプらしきものをとべばいい、なんて風潮がなければそもそもおこらない問題だったような気がします。

とはいえ、今回のテストスケートは、昨年までにくらべて、ジャンプ構成はかなり押さえたものになっていましたし、転倒も多かったです。国際試合がないため、モチベーションがさがってしまったのか、それとも怪我をした選手が多かったということなのか、何か他の要因があるのか、よくわからないところです。

男子は予備役を中心とした招集が考えられていましたので、兵役、大丈夫なんだろうかと、変な心配でぐったりしてしまったところはありました。コリヤダの髪型って、例年だとなんにも思わないのですが、今年は妙に兵役と結びつけてみてしまいましたし...実際に招集令状が届いたのはアリエフとイグナトフ、ナショナルチームにはいるレベルの人は除外対象になるという決まりがあるから大丈夫じゃないの?と思いきや、どうも今回はそうではないらしい、という憶測もあります。なんともいえないいやな気分です。こんな戦争、本気でやりたがっているのってプーチン以外はどれだけいるのでしょう。

それから物議を読んでいるワリエワのFSがあります。最初にニュースを流し、最後にワリエワがマスコミの目をそらせようとフードをかぶった例のドーピング問題をもろにあつかったものです。

 

これに対しても、Twitterをみるだけでも、反応は大きくちがいました。みたくもない、ワリエワの国際試合復帰だけは許せない、自分はかわいそうでしょうといわんばかりの滑りをするなんてどうかしている、ドーピングをさせておいてそれをネタにこんなプロをつくるのは許しがたい、などなど拒絶する見解と、賞賛する意見と。賞賛の意見には、たとえば次のようなものがありました。
 


 


自分としては後のほうの見解を支持します。テーマはまちがいなくあのドーピングスキャンダルです。が、ものすごい「内なる痛み」のプログラム、といえないこともない。実際、はじめてみたときは最後のフードをかぶる振付になるまでドーピングと結びつけなかったのです。最初の話し言葉は何をいっているのかさっぱりわかりませんでしたから。

ドーピング問題を頭からふるいおとしてしまえば、いいプロであり、いい実施だったと思います。斬新な動きもかなりありましたし、明らかに怪我をしているようにみえるのに、ジャンプは転倒もせず、滑りは前よりもよいものでした。もともと、緩急を自在にあやつれるものすごい技術をもってます。これは昨年のSPでも明らかでした。冒頭を思い出してください。あのつるつるすべる氷の上でいきなりきれいに楽々と止まったでしょ?ほとんどのスケーターはあれができないです。できないからアクセルなどで氷上の下回りを平気でやるんですよね...あとあのすばらしいバランス能力と柔軟牲と音楽牲。もともとの素質に加え、粘り強く、慎重に積み重ねてからこそ手に入れることができるもの。あれはドーピングで得られるものではありますまい。

なにより生々しい心の痛みをこれだけ氷の上で表現できるのかという驚きがありました。冒頭のニュース部分はなにをいっているのかまったくわかりませんでした。ドーピングに結びつくのだろうと思いながら。最初はラストにびっくりしました。ここまで挑発的にやっていいのかと。冒頭とこのラストのために物議を醸しだし、猛反発の声があがるのは容易に想像がついたからです。正直、やりすぎじゃなかろうかと。

だけどあきれるほど個人的な体験を使って普遍性のあるものにしてしまうというのがアートなんですよねえ...

個人的には、私はかわいそうでしょ、同情して、といっているプロには見えません。そしてそもそもこの慟哭の原因が何なのかを考えているようにもみえません。自分の違反なのだ、という考えがあるのかどうかもわかりません。このプログラムは原因については何もいってないように思えます。ただ、突如、突き落とされて、ものすごい痛みを味わうという状況をえがいているのはいやでもわかります。その痛みを見ている人、少なくともその一部はまざまざと感じるというプロになってると思います。生々しい感情を美しい技ととけこませたある意味、空前絶後のプロかもしれません。その生々しさを伝えるためにもあのフードをかぶる動作は振付に必須なのかもしれません。

こんなすごいスケーターがなぜドーピングなど...

ロシアアンチ・ドーピング機構(RUSADA)事務局長が未成年であるため判定が公表されない可能性があるといっているのだそうですが、これは物議をよぶ方法じゃないでしょうか。この発言を読んで、検査で陽性と判定でたんだ...と反応してしまいました。陰性だったのであれば、未成年は結果は発表しない決まりなのだけど、と注をつけながら、陰性だと言い切ってしまえば禍根は残さないでしょう。なのに...もちろん、実際のところどうだったかは断言するのは不可能ですけど。

陽性だったのであれば、未成年であっても、何らかの処分をしたほうがよかったのじゃないかな。一年間は国際試合、国内試合とも出場停止にするとか。

そして少なくともエテリ組に対しては、厳重な監視体制において、ぬきうち検査でもして、ふだんからドーピング違反はまったくでないような手段を当面、講じてほしいものです。少なくとも当面の間。そして、一定期間がすぎた後も、抜き打ち検査を続けて根絶の努力は少なくともみせてほしい。ぬるい考えかもしれませんが。

水を飲むのさえきびしくコントロールするエテリ組で、コーチにだまってこっそりと、ワリエワが個人的にドーピングをやっていたというのはとうてい信じられません。それより、エテリ組全体がドーピング違反薬をサプリとしてコーチの指示で摂取しているほうが簡単に想像がつきます... おそらくは過激なダイエットをしながらも、きびしい練習をこなせることができるようにするために。なぜ一人だけ検査にひっかかったのかは謎ですが。もし想像通りであれば、本人は出場停止など処罰を受け、コーチ陣はさらにきびしい罰を受けるべきだと思うので。

そしてそのような行動をコーチがとるのも、いろいろな競技でドーピング問題を引き起こしているロシアという土壌があってでしょうねえ...ドーピングのせいで、ロシアという国としてオリンピックに代表をおくれない状況であってもなおも続いていて、そしてその背景を考えるとなんともいえないものがあります。

異論はいっぱいあると思いますし、コメントいただくかもしれませんが、もしかすると、承認しないかもしれませんのでご了承ください。このブログで承認しているものは、基本的にはお返事するコメントです。返事が難しい、と判断すれば承認をみおくっています。そうしないと自分が疲弊してしまうので...  ここに書いたものが不快と思われたら、このブログは無視していただいてまったく問題ありません。

さて、以下に演技動画ですが、リンクをはってくれているTwitterのご紹介をしておきます。けっこうあります。気が向けばどうぞ。