結果ページ    
男子FS 得点詳細        
プロトコル    
オフィシャル    

画像

 

1 羽 生 結 弦 211.05 (114.25 96.80)

 

 

画像

 

 

4A (両脚), 4S, 3A+2T, 3Lo, x4T+3T, x4T+eu+3S, 3A

 

いろいろ面白い大会でしたけど、それにしても最後の最後に想像通り圧巻がきました。他も面白い演技はたくさんあったのに、今、もうすべての演技がぬりかえられてしまったかんじ。SPにつづいて単独でかきます。今、書かないと、一応、書いて考えまとめてしまわないと、頭が爆発しそうです。実際に何度もリピしているのですが、みるのをやめても、何度も頭のなかでぐるぐる。他の演技をみてもたぶん、頭の中を即すりぬけて、頭のなかにあるのはこの演技だけになるはず。

 

あまりにすさまじすぎました。完璧、と思った去年とくらべてすらまだ上。4AがURで転倒扱いになりましたので、得点としては昨年の215.83 (118.61 97.22)を下回っています。まあしょうがないでしょう。完璧だった昨年とくらべてミスがでたのですから。

 

だけど、4Aをのぞいたら、今年のほうがさらに深みがまし、技術にも表現にもみがきがかかっていました。そう、今が一番羽生史上よいときなのはまちがいない。なんなのです。27で、表現はともかく、技術も一番いいって。

 

バレエならありえるんですよ。たぶん、技術的にも音楽の表現の面でも一番いいのは30代。音楽への深みはどんどん高まるのですけど、肉体がそれについていかなくなることが多いかな。それより上の年代でも立派に踊っている人はもちろんいますけど。

 

フィギュアはスポーツでもありますから、体力的により厳しいです。25までしか新しいジャンプに成功した人はこれまでいないというのでもわかること。アイスダンサーなら30代もいますし、ペアにもいますが、シングルはホント少ない。なのに、今が最高の状態、最高のうまさというのはSPでもこのFSでも証明されたことになります。

 

冒頭、少し振りつけかわりましたよね?去年はあのポーズで前に向かって滑り、もっとずんずん攻めてくるかんじでした。ところが今回は後ろに,,,びっくりしました。スピードをおさえるためかなあ。でも殺気は前と全く同じ。そう、少ないとはいえ、逃げるときに使うはずの後ろ向きで同じ殺気っていったい...そう思ってみていると、あっという間に4Aの場所に。

 

飛び上がったとき、固唾をのんでしまいませんでした?練習より回転をかけようとしてるのはわかりました。問題はほどいておりてくる場所。高さはたりてるはず。4回転~4.5回転の間でおりるまで締め続けられるか、ぶれないで、傾かないでいられるか、のはず。ああ、両脚着氷。回転たりてるか、という心配があたってしまいました。不吉な黄色。結局、URとしてダウングレード、さらには両脚ということでマイナスがつきました。転倒したわけでないのにGOE-5っていったいなに。

でも、もう少し、ほんともう少し。次の試合(たぶん北京)までにできていても不思議はなさそう。だって春先には練習で転倒してましたよね?たしかもっと低かった。それが両脚とはいえ試合で着氷したんです。練習のときも着氷していますので、あとそれこそ45度とかそんなものじゃないかしら。最後に降りるときのタイミングが一番問題なのかなあ。いや、軸がやや斜めでしたか。無良君もいっていたけど、ほんと、空中で軸を保っておりてくるのが難関なんでしょう。それから着氷のときの衝撃をいかに逃がせるかも問題になる。ミーシンやヤグディンが無理、といってるのはこの点です。

 

だけど両脚で回転不足とはいえ、転倒せずおりた、というところが大きな進歩。転倒したときの衝撃はもう考えるだけでおそろしい。手袋して練習しているはずですが、久しぶりにあらわれたときの手、ごらんになりました?あれ、4Aで転倒したときにできたにちがいありません。ほんと、打ち付けられて死ぬかもしらないと覚悟しながら練習しているんでしょう。とんでもない話です。

次の4S、またもやびっくりしませんでした?あまりに楽々ととんでます。4Sってこんなにかんたんなジャンプなんですか?FSで挑んだのは12人、 昌磨君、鍵山君、佳生君、友野君、壺井君とたしかに成功した人もいますが、佳生君の3.19が最高で、あとは2点台です。星南君は2本飛んで着氷したものの単独はマイナスでましたし、高志郎君はまわったものの、マイナスがつき、草太君は<<、吉岡希君は<です。刑事君の3S、2Sは4Sをとびそこねたもの。この8年の技術の進化はすごくて、4Sに挑んで成功する人多くなり、この大会も12人中5人までが成功しているので、かなり成功率は高いといえますが、それにしても

なんだかダブルジャンプの難度もないのか、というふうにみえます。GOE 4.30って、ジャッジが4か5しかつけてないということです。*うわ。今まで満点のジャンプってあったかしら?記憶にないです。ということは、これまでで最高点に近いジャンプがでてしまったといっていいのじゃないかしら。羽生君の4Sがいいのはわかりきってましたが、それにしても、です。8年前は着氷できなかったジャンプです。それが今や楽々でプラスがあたりまえ。いや、今季は昨季より楽々ととんでます。4Aの練習のせいでしょう。

*実際には、J5が3をつけてますが、一番上と下は点数からはぶかれます。この場合は5と3が省かれたわけです。

3A+2T。前より高いですよね。前から一番美しい3Aを跳ぶとまでいわれていたのに..,上には上があるのでしょうか。3Lo。どこに悪いところがあるかわかりません。エッジ系ジャンパーだなあと思うジャンプ。このままの構成ならだめ、といってたのでもしかして、これを北京では4Loにしてくるということあるのかしら?もしそうならこの位置じゃないとおもうんだけど。いや、今ならこの位置で大丈夫なのかも。

4T+3T、4T+1Eu+3S 楽々。失敗する気配すらかんじません。成功して当たり前。表現になって当たり前。

そう、4A以外のジャンプはどう考えても質があがってます。で、予想と裏腹にFSも速度をださない...これ、軸を正しくとるため、といっているらしい...まだこれでも速いと。なるほど。冒頭も前にがんがんと攻めるおちうかんじでなくしたのもおそらくそのせいですね...

 

4Aをとぶ練習で、ジャンプのレベルをあげるには軸が大切、そのためにはややスピードを緩めるほうが正解、というふうに結論づけたのかしら?速度はSPなみでしたよね?昨年が25.3でしたが、今回はさらに遅く、キスクラでもっと遅くていいみたいなことをいってたのでびっくりしました。ほんと、フィギュアって速度じゃないのね。スピード信仰者はちょっとは考えてほしいです。


個人的には、スピードに関する不満はまるでかんじません。ゆるめか?ぐらい。不満のなさに、ジャンプのすばらしい質のせいもあるはずです。速くすべってジャンプのエネルギーたくえる必要まるでないというか。だからこそあれだけのTRがいれられるのだけど。ポイントは前よりジャンプは安定し、3Aなどは高いということ。これ、4Aの練習の余波ですねえ。4Aを成功させるにはさらなる体幹の強化がいる、そして4A練習するということはケガのリスクおうという大きなデメリットがある反面、体感強化、体力強化にもなったのでしょう。そうしなければ成功に近づきもできないでしょうから。うううむ。スピードを落として保つコントロールですか....

自分は逆に感心してしまう速度の落とし方ですけど、羽生君のアイスタッツ、FSがどこかにあがったらまたいろいろいう人がでるはずです。遅いとか。真ん中でちょろちょろしてるだけとか。だけど、そういうコメントがでること自体、4Aの成功に必要なのは何かを考えてもいないことになるんでしょう。それと、SSがなにできまるのかを理解しようとしていない。速度ではない、とほんとにISUのレクチャーではいってるんですよ。あれをみたらどうでしょう。英語ですけど。

 

これは日本語ですからわかるかな。

 

スケーティング・スキル

総合的なクリーンさや確実性,スケーティングの諸手段(エッジ,ステップ,ターン等)を自在に駆使することで示されるエッジ・コントロールや氷上における流れ,明確な技術,無理のない加速やスピード変化を指す

ディープ・エッジ,ステップ,ターン

バランス,リズミカルな膝の動き,足運びの正確さ

流れ(滑らかな動き)と滑り(エッジの推進)

パワー,スピード,加減速の多彩な利用

あらゆる方向へのスケーティング

片足でのスケーティング

項目6つあるんです。他の5つを無視して、速度ばかりいうのはどうでしょう。

たしかにパワーもスピードもいってますが、注意しないといけないのは「加減速の多彩な利用」という箇所。そう、変化が大事。それも単にジャンプとか、スピンとかの項目によるものじゃなくて、音楽によるものが重要視されるはず。

で、どれをとっても羽生君以上、あるいは近い存在は現時点でシングルではいないです。パトリックならならべたし、ハビも遜色ありませんでしたが、二人とも引退していません。ブログ主は現役のスケートならコリヤダとハンヤンが好きですが、2019年のコリヤダのデータみると、ベスト6の中で羽生君につぐ2位はまちがいないけど、いろんな数字は圧倒的に羽生君がすぐれていることを示していました。この話は次にかいているので、よかったらどうぞ。

 

 

数字をあげてくれたyoutubeもリンクしています。

 

あと、ISUがつくっている動画とか。

 

人の目でエッジをつかっている長さを調べるのはちょっと無理に思えるので、エッジを使っている時間を測定したのをみたことないけど、人の目であれ、AIによる分析の支援を借りてであれ、はかってみれば、羽生君はおそらく他のスケーターより圧倒的に長いはずです。で、スピードとその結果のカバー率の高さがあると賞賛されているスケーターはエッジ時間は短いはず。基本、クロスを多用していわばブレードすべりしているようにみえますから。クロスの数が多くても昌磨君はこの点がちがう可能性があるなあと考えてみたりして。じっと足元をみてみましたが、正確なところはわからずじまいです。

それにしても、音楽が心の葛藤をあらわすんですねえ...天と地と、Seimeiの一番のちがいは音楽が外界をあらわすものか、内面をあらわすものかのちがい。Seimeiはきわめていいプロですが、あの音楽は、Seimeiの内面をあらわすものでなくて、あくまでSeimeiのひきこまれた/まきおこす外の世界をあらわすものだったはず。対して、天と地とは、音楽が心の奥をあらわしているというか。

そういえば、去年の全日本のあとにでた記事に、羽生君はこういうコメントをしていました。

「最初の琵琶は、曲の流れが表しているようにある意味戦いへ行く準備と決意に満ちている感覚です。最後のスピン時の琵琶は、もともとあった音ではなく、曲と重ねた(このプログラムの)オリジナル。そこはコレオステップの時に、もう戦いたくはないのに守らなくてはいけないという意味で戦う気持ちや、最後に(上杉謙信が)出家する時に自分の半生を思い描いているようなイメージで重ねてみました。

 琴の音は『新・平家物語』の音も使っていますけど、どちらかというと日本風に持っていきたかったところもあったし、ステップシークエンスでは信玄公との戦いの後で霧に包まれて離ればなれになった時に、自分と向き合っているようなイメージで。自分と向き合いながら心臓の鼓動とか血液の脈動を感じ、スーッと殺気が落ち着いていく感じを伝えられたらいいなと考えました」

 

 



そういえば小説の天と地(中途半端にしかよんでない...)でも、謙信は琵琶をひく人という設定でした。闘う人であり芸術家であり、という人物設定なんでしょう。アクションがありながらも、いろんな物思いがうずまくものです。ほんと、勧善懲悪ものだったSeimeiよりはるかに複雑。

音はめは前からすごかったじゃないですか。それが今年は更に進化したというか。ロンカプのせいでそう思うのかしら。

とくに印象的なのは琵琶と琴じゃないですか?そう、羽生君のインタビューにあるとおり、あの二つの楽器がとくに謙信の心の動きを表していたと思うんです。でも、演奏全体が心の動きになってません?見えないはずの心の動きが音になってうわーっとあらわれてくるのをみてたような。これはSPでも感じたことでした。そう、言葉じゃなくて音楽が心の移り変わりをあらわしている、そうかんじさせる演技をSPでもFSでもみることができました。なんていうんだろ、羽生君が音楽にあわせているのではなくて、羽生君の動きによって音楽がわきでてきて、その音楽が心のゆれを反映しているといえばいいですか?

 

バレエならこういうの何度かみたことあるのです。ここまでのもの、フィギュアでは今ちょっと思い出せません。近い感情を抱いた演技はいくつもありますよ。羽生君の演技も含めて。だけどここまでずぶずぶとはまっていく感触はありませんでした。そう、SPに次いで、動きと音楽によって人の感情を共有した気分をあじわう4分間。ここまでの戦いとは無縁の人生を送り、殺気を発したことなどほぼなく、それなりの悩みはもっても、戦いたくないけど守らないといけない、というような気分などあじわったことのない人間が、少しとはいえその気持ちを味わうって、いったい.... 

 

だいたい人の気持ちってわかったつもりにはなれても、それを体験できるなんてないじゃないですか。実生活では。だけどそれがまるで体験できたかのような気持ちになれるのって、アートの力だと思うんですよね。アートでしかありえない。そりゃ勘違いだといわれたらそれまでですけど。で、その捉え方には結局のところ、奥に自分の存在がいるのはわかっているんですけど。同じものみても人によって反応がちがうのは、結局その人の存在が関係するから、というのはわかっています。でも、でも...

 

未来には、3D体験とかで少しは踏み込めるのかもしれないけど、少なくとも今はない。

 

そう、去年はすべてをみた、という気分にひたりましたが、今年はさらにおそろしいものをみた、というか味わった、という気分です。

 

昨日かきあげることができず、こんなに長くかいてしまいました。それでもまだ書き足りない気分なんですけど、他に何もできないのでいいかげんこのへんで。

 

*お返事おまちください。ちょっと仕事の分量でバカをしてしまい、今、リカバリに必死です。2日ほどおくれても書きますので、コメントがあればどうぞご遠慮なく。