結果     http://www.isuresults.com/results/season1920/gpf1920/SEG002.htm

FS詳細結果 http://www.isuresults.com/results/season1920/gpf1920/SEG002.htm

プロトコル  http://www.isuresults.com/results/season1920/gpf1920/FSKMSINGLES-----------FNL-000100--_JudgesDetailsperSkater.pdf

3    Kevin AYMOZ    FRA    178.92    90.34         89.58    

 

 

羽生君が今回は4回転5回にチャレンジし、いつもほど曲表現をせず、ネイサンはいつものとおりでした。サマリンにそういうのを期待するのはまちがいだし、アリエフもボーヤンもミスがありました。アリエフなどいいときは、ぐっとくる表現してくれるのですけど、あれだけジャンプミスがあるとどうもならないでしょう。だからこのファイナルのFS、音楽表現という意味で危機だったと思うんです。

そんな中、4番目に滑走したケビン・エイモズがトランジションに富んだすばらしくエモーショナルな演技をしてくれました。

音楽というのは少なくとも3つの要素があると思っています。もちろん一つはリズム。二つ目はメロディ。三つ目はエネルギー。もちろん他にもいろいろあって、どの楽器/歌い手を使うかとか、それぞれの楽器/声の割合とか、他の要素も無数にあるでしょうけど、ものすごく単純化させてくださいね。踊りで基本的に大事になるのはこの3つかなと思ってます。録音ならともかく、生音つかうときは、本番リハあたりにならないとなかなか本番通りの楽器/歌が使えないことけっこうありますが、想定していたのとちがうエネルギーがあることがあって面白いです。

いわゆる音楽性のあるスケーターって、この3つがそろっていると思うんです。男子でぱっと浮かぶので羽生君、ハビ、パトリック、昌磨君、ジェイソン、デニス・テン、ジョシュア・ファリスもちろん高橋大輔君。私はコリヤダやキーガンもいれたいし、他にも浮かぶスケーターいます。ジャンプを一応まとめてスタミナがなんとかなったときのアリエフはそうだし。アリエフはその、去年あたりから、よく。ばかあといっている気がするけど。この試合もそうだったけど。

こうまとめていると、自分の嗜好というか、自分が何をもとめているのかすごいわかってしまう(-_-;)技術はむむむ、でも、この音楽性と自己表現をやろうとしている選手は欧州選手権ではたくさんいます。欧州が楽しいのはそこです。こうやりたいのだろうなあ、それいいよね、なんてみてることあります。なんでしょうね。実現しているものを評価しているのでなくて、推測上のプラニングを評価しているのかも。自分にとって突拍子がないものがきておもしろいなあと思ってることもあるし。一方、四大陸のほうはわりとないです。ジャンプでは逆転しますけど。

これで考えていくと、自分の考える音楽性というのと、ジャッジ/記者/解説者が考える音楽性というのがどうもずれているときがあるわけが理解できてしまいます。たとえばネイサン。

1つめのリズムについていうとネイサンは高評価になるでしょうね。先日、コレオでつまずいたときにリズムくずしていましたけど(なぜだかジャッジはとがめず4や5だらけでしたが)、基本的にリズムははずさないです。せいぜいジャンプの後がおかしいぐらいでしょうか。ネイサンの音楽表現を賞賛する人は、バレエ的な動きか、このリズムにのる能力を賞賛しているように思います。

ジャンプのリズムがふつう各スケーターにはあって音楽とずれる選手が多いし、羽生君のように自分のリズムにある程度あうものを選ぶという人もいます。SPは実験し続けていますけど、FSでシェイ=リーンのもってくる曲でなく、本人が選んだ曲になるのはそのせいだとか。まあそうですね。本数が多いわけだから。自分のジャンプのリズムとちがう音楽聞いてしまうととくに後半で体力がなくなってきたときにジャンプが飛べなくなるのじゃないかと。

ところがネイサンって面白いことに、この音楽のリズムのとおりにジャンプしているみたいにみえます。たぶん、ですけど、直前に自分のジャンプのリズムにすればとべるのでしょう。ものすごい技術かもしれない、という気もするし、いや、バレエではリズムかわっても同じテクニックあてはめるわけだから、それになれていたらできるのかもしれない、という気もします。いずれにせよ、めちゃくちゃ特殊ですが、ネイサンのリズム感は最上級ではないかと。それを評価するなら、ネイサンの音楽性はすばらしいということになる。


だけどメロディからくる情緒/エモーションとか、曲のエネルギーとかはあの演技からは感じられません。よって私としては音楽表現ができていないタイプ、になってしまう。ここらへんがネイサンの音楽表現をたたえる人と全然ちがう意見を言い続けている理由だと思います。すぐに感極まる人間なのですが、感極まったことがない。このメロディ/情緒/エモーション、エネルギーの問題は四回転のせい、といわれてますけど、アイスショーのときのランドオブオールは試合よりはあったとはいえ、根本的にパフォーマンスのエネルギー値などなどが変わってなかったということを考えると、単なるジャンプが引き起こす問題ではなく、もっと根の深い問題でしょう。

やっと長い前置きをおえて本題にはいります。ケヴィンの演技、SP,FSとも、このエモーショナルという意味ですばらしかったと思います。

ジョニー・ウィアとタラ・リピンスキーが次のようにコメントしたそうです。

GPF【エイモズFS】ジョニ;彼の滑りって喜びにあふれていて自然でとてもいい。技術面ではちょっと怪しい所もあるんだけどこの試合ではGOE高い。タラ;ファイナル進出ちょっと驚きだったのにSP凄くリラックスして自信もって滑ってた。彼の情熱はミスを目立たなくし、いい時はさらに盛り上げる。

https://twitter.com/Winter026/status/1203503021943967744

この二人のコメントがうまくケヴィンの本質を言い表していると思うんです。


技術の面では万全といいますまい。たとえば4Tです。4T+3TではGOE4だしているジャッジもいますが、2もいます。3ぐらいでいいような気もする、なんて思ってたら、単独4Tで転倒がありました。うん、こういうかんじです。回転不足が0の試合ってあまりないかも。

トランジションにしても、フィギュアには羽生君ばかりかジェイソン・ブラウンというトランジションマスターといってもいい存在がいます。それにくらべると滑り/トランジションの精度が少したらないのかもしれません。

でも、ジャンプミスやそういうちょっとした問題点など、どうでもいいわ、と思える演技だったではないですか。スケーティングは曲にあわせてすべらかに、そしてやわらかくさしのべられる手はまるで灯台の明かりがすーっとくるようなかんじ。そして曲の盛り上がり(といってもうるさくは決して無い)を滑りが高めてくれるすごみ。曲だけきいてみたことがあるのですが、どうもケヴィンの滑りが浮かぶのです。曲本体で感じる以上にケヴィンのスケートがあることで感情がかきたてられるせいでしょう。こういうとき、曲が大きくなったように感じるときってあるのです。今回もそれで。

歌詞こっちなのです

https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Patrick-Watson/Lighthouse

灯台には文字通りのものだけでなくて象徴的な意味がこめられているのでしょう。自分が曲をきいたり歌詞をみたりしてわきあがったときの感情とケヴィン/振付師の狙いが一緒のはずもない。だから滑りをみたときにわきあがる感情が、必ずしも狙い通りのものとはかぎらないし、浮かんだ自分自身の思いを言葉にすべてできるかという自信などありません。でも、こういう物思いをいだかせてくれる演技ってやはり大好き。別にしんみりした気持ちにさせなくて、ひたすら楽しかった、美しかった、でもいいんだけど。とにかく何らかの感情をひきおこしてくれる滑りが自分には大切だし、そういうのを待ち望みたい。

今回のケヴィンの演技はそういう嗜好にぴったりなものでした。

 ごく静かに始まります。ケヴィンのスケーティングもSPとはあきらかにちがう。だけどこの曲、ただ静かでなくて、底にエモーションのある曲です。それが徐々に明らかになっていくのが滑りでわかります。どんどんトランジションがふえ、どんどん動きも多くなる。


踊るって、結局、音楽の解釈を目で見える形にすることじゃないかと思ってます。基本は曲と同じベクトルを向いた解釈するんでしょうけど、時に全然ちがうものと結びついたりもしてます。パパシゼが昔やったモーツァルトもそうですよね。あれは、モーツアルトの曲と不倫の物語をむすびつけたバレエからきています。全幕みていないのですが。ちょうどパパシゼが使った23番を使った部分がここです。たぶん下のがオリジナルキャストだと思うのだけど、ちがうかも。
https://www.youtube.com/watch?v=ORI_z-Xi9js&feature=emb_rel_err

こんなもの作曲者が想像していたとは思えません(笑)モーツァルトが映画アマデウスのような人だったら面白がったような気はしますが。そういえばメドベのオリンピックプロのショパンの夜想曲20番も脳死(寸前?)からよみがえるストーリーなんてショパンがきいたらびっくりしそう。

また話それてますね。なぜこんなにすぐそれるんだろう。漫然と書きたいんでしょうか、それとも単におしゃべりなのか。すみません。


要は、作曲家が狙った方向であれ、思いもしなかった方向であれ、曲のもつエネルギーを生かして、振付師/スケーターを含む踊り手が目で見える形で音楽を表現するのが踊りだと。フィギュアは私にとっては、スポーツ要素はあるとはいえ、氷の上の踊りですので、そういうのが見られたら大喜びしてます。

それをケヴィンはこの試合、SP、FSともまずまずそろえてやったと思うんです。料理しているときに、気がついたらこのLighthouseをハミングしてたのですけど、じんわり浮かんできたのはケヴィンの滑る姿でした。はい、この演技、ミスはあったけど気に入ってます。欧州でもこのレベルでみせてくれるといいな。

 

あとの3人は明らかによい日でなかったということで。