しつこく続きです。別の記事はさんでしまったので、別記事にします。
ポッドキャストKiss&Cry II第2回(その1)「羽生結弦と魔法のオーラ」
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羽生はルールの句読点(細部)まで研究するタイプだ。
彼の全てのエレメントはGOE満点を獲得できるように設計されている。
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ホールパッケージをめざし、GOEをとるのがクリケの戦略です。またルールを細部まで研究するのもクリケ流です。これはキムヨナのときからすでにやっていた方法で、ハビのプログラムもGOE満点、オールレベル4になるように設計されています。羽生君は圧倒的に満点をとる率が高いですけど。
クリケはおそらくほとんどのジャッジよりくわしいでしょう。技術委員会よりもくわしいかもしれません。笑えたのが、オリンピックシーズンのザギトワの後半固め打ちについても、ブライアン・オーサーが次のように書いていることです。出典は「チームブライアン 新たな旅」です。Kindleだと91%のところです。
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「本来なら、こんな偏った滑りをする選手がいれば、演技構成点のひとつである「構成(コンポジション)」が減点されるべきです。もし後半にジャンプを固める演技をしたのが無名の選手であれば、「構成」は大きく減点されるでしょう。でもトップ選手は減点されrないという現象が起きていました。私の印象では、もし他の4項目が9点台とレベルの高い選手でも、「構成」だけは7点台にすべきでした。それくらいバランスが悪いものでした。
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これ読むと、後半かためうちで点をとったエテリ組の戦略が、ルールをかえるまでもなくあっさりと撃退できたことがわかります。ISUがやるべきことは、ルールを変えるよりも前に、ジャッジ、とくにレフリーに通達をだして、この戦略をとるようにと指示することだけでした。で、守っているかどうかをきびしくチェックする。なんならコミュニケーションを新たにだして、注釈をつけてもよかったのでしょう。そして必要なら、翌年にルールを変える。それだけのことでした。
また、このやりかたをする価値は別にあったはずです。PCSは似たような点にしないといけない、という思い込みをジャッジにすてさせることができたはずなんです。あの、すべて同じような点にしないといけないっていう思い込みはなんなのでしょうね。まあ、この点はここでは追求しません。
あと、TRというのはこういうものですよ、とジャッジにみせた話とかも前の本でしていました。現場のほうがはるかにジャッジより理解が深いのだなと、これもおかしかったものです。ま、選手=コーチ>ジャッジ でしょうね。一流を三流がジャッジしている、なんてジャーナリストがいってたような記憶があります。ほんと、それが現状なんでしょう。
そして羽生君というのは、「自分で考える」人なのです。それもきちんと証拠をつみあげて考えていきます。「ルールの句読点(細部)まで研究するタイプ」というのはまさにそれ。おそらく、後半かためうちにどう対処したらいいのか、とオリンピックイヤーに誰かが聞いたとしたら、おそらく上のような方法を回答したのじゃないかと。クリケでは放し飼いにされている、と羽生君がいっていたことがありますが、自分で考えないと気が済まないのだから、放し飼いにしておこう。そうしたっておかしな方向にはいかない、まともな考えを持ってると思われてたのじゃないでしょうか。前は無茶やりもいいところでしたので、時々、見張っておく必要はあったでしょうけど。
その真骨頂の例がジャンプの評価項目の1つ、「 element matches the music (音楽との調和)」というのがどういうことかを考え抜く、ということです。
マッシミリアーノさんがあげていらっしゃるのが、
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注意して見ると、彼は非常に難しいコンビネーションジャンプ4T/eu/3Fを実施する際、拍に合わせようとしている。
拍、つまり音に完璧に合致できるよう、回転を遅らせているような印象を受ける。
GOEプラス要件の一つである「音楽に合っている」の項目も満たすためだ。
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ジャンプで音楽にあわせる、というと、「ジャンプの跳ぶタイミングを音楽にあわせる」と考えているのではないでしょうか。失敗するかしないかわからないジャンプでそれ以上、どうするんだ、と。ところが、マッシミリアーノさんがいっている3連みてください。2:46ぐらいです。
は?ですよね。これ、世界初のコンボなんですけど。なんでしょう。この音はめ。たしかに回転を微妙におくらせてるかも... SPのツイズルサンドもおどろきましたけどこれもですか。つまり、羽生君にとっては、「ジャンプの後」もはめるのがあたりまえ、それどころか「空中」も調整して音をはめている、ということです。信じられない。4-1-3ですよ。一週間後、同じコンボをみましたが、この音はめだけとっても、価値がまるでちがいます。
あとジャンプの種類ってのも明らかに意味があります。曲にあうのがこのジャンプ、とエキシでは選んでいるときもあるようですが、回転数はともあれ、6種類全部をとぶFSのHope and Legacyでおどろいたのが3F。ステップの完璧な一部でした。Fってそういうジャンプです。飛ぶ前にくるっと回すようにしている人、多くないですか?直前の動きの回転にさからわない、慣性の法則にしたがうジャンプで、身体が無理のない姿勢を保ちます。ステップの完璧な一部になったってちっともふしぎでないように思います。
で、これをやるのって、ほんとにこだわりと、つみかさねの結果なんだな、と思ったのが、マッシミリアーノさんがみたという13歳の時の羽生君。このときJGPS初参加。
完璧とはほどとおです。ミスもしてます。でも、わずか13歳のジュニア選手ができるかぎり音をしっかり広い、音の強さ、弱さも表現しようとしている姿がうつっています。ジャンプもやろうとしてますよ。もちろん完璧にはできてません。着氷みだれてますから。スピン1つは失敗してしまったし。最初の音がかなり強いでしょ?まるでまけません。それどころか音と同じだけアクセントのみ、しっかり強く動く。欠点もはっきりしてる。体力。それから、背中ですねえ。ほんと、本人がずっと背骨をかえたい、とまでいっていたとおり、決していいポジションを保ち続けているとはいえません。でも資質は明らか。そりゃ、マッシミリアーノさんやアンジェロさんのような目利きなら夢中になります。11年愛がつづいた結果、まるでお父さんたちのようにうちの大事な子扱いしてますよね(笑)
で、おそらくこの演技をみて、フィギュアをやる!ときめたのがダニエル・グラスル君です。気に入っている選手が、他の好きな選手を気に入ってフィギュアをはじめた、っていうのはこれで二人目です。もう一人はハビです。なんとロビン・カズンズを見てフィギュアをやりはじめたとか。二人ともセンスよすぎるわ、とうかれてしまう(笑)グラスル君はジュニアグランプリファイナルにでますので、注目してくださいね。放送しないでしょうから、ライストか動画でどうぞ。たぶん、このブログに貼ると思います。グラスル君の特徴は、4Lo、4Lzという超難度の4回転をもっていること、こんな組み合わせとんだことあるのは、あと羽生君だけです。そして何より変態スピンと呼んで愛好しているスピンです。まあ、こんなアホな呼び方している人いないと思いますが。ジャンプ失敗したって、このスピンはぜったいみてくださいな。その価値あります。はっきりいってあんな難しいものする意味はありません。得点が加算されるとも思えない。身体が痛いだけでしょ。でもやりたいんですよ、きっと、幼い頃にみた羽生君のスピンに衝撃をうけて、こんなふうにまわる、いや、もっとすごいのする、なんて思ったのでしょう。
ついで。SPと練習風景もはっておきます。
SPはYouTubeでごらんください。
まだ他にも書きたい気がしますが、きりがないので、とりあえずこのへんで。