知恵袋では、「欧州系」と「北米系」でスケーティングのちがいをざっくりわけて説明してありました。

くくりとしてはこれでまちがっていますまい。実際、欧州と北米を対比してみると、

もともとが図形を描くことが目標であり、結果的に正確にリズムを刻むようになる欧州
欧州に追いつけおいこせと研究を重ねた結果、伸びとスピードがでて、正確なリズムでなくメロディアスになる北米

という図式になりそうです。

が、この図式、ものすごく大ざっぱだと思われませんか?

日本、中国、韓国などをひとくくりにした「アジア系」スケートとはxxxの特徴がある、といわれたら、そうかあ?といいそうな気が...たとえば、中国ペアはアクロバティックです。だから、「アジア系のスケートの特徴はアクロバティック」という定義がなされたとしたら、なにかがちがうような気がする、そりゃ、初の女性3Aも、4F、4Loも日本だけど...という反応を自分はするんでしょう。

それと同じようなもので、欧州系といっても、各国ちがいがあります。欧州選手権をみると、実に彩りあざやか、です。でも、なにせサンプルが少なすぎますので、それがその国の特徴なのか、その選手の個性なのかよくわからないです。

ただし、昔アイスダンスでこんなわけかたがありました

バレエを重視した演技のロシア
社交ダンスが発展した英国⇒フランス

これはそのときはそうかも、と思って見たような気がします。だいぶん事情はかわってきていますけど、ロシアはバレエ重視/必須/基本なのは今でもかわらないのでは。

で、本題の北米です。

前回も書いたのですが、アメリカとカナダはかなりちがうと思ってます。

北米の特徴として知恵袋にあげられた「距離とスピード」っていうのは、私にとってはカナダの特徴なんです。アメリカはそれほどあてはまらないんじゃないか、なんて思いながらちょっと考えてみたところ、

 

いやいや、アメリカはブレードを使って、距離を進む、というのをやっています。たしかにあの定義は正しい。

 

アメリカには、スピードも伸びも明らかに達成している技が伝統芸があります。その技がない全米など、全米でない、とおもうくらい浸透してます。

「スパイラル」です。基本的には女子技です。でも、ジェイソン・ブラウンのように男子でもすばらしいスパイラルをやる人はいます。柔軟性があれば男子もいける、ということでしょう。逆にいうと、あまりよろしくないスパイラルは女子であれ、柔軟性がないことが多いでしょうか。昔はスパイラルシーケンスとして女子の必須項目でした。差がつかない、という理由でバンクーバーの後に廃止になってしまいました。その結果、かなりレベルダウンした技でしょう。アメリカ女子はレベルを保っていると思いますけど...

このスパイラルの移動距離がすごいのです。一番びっくりするのはミシェル・クワン。アメリカの元祖ミスパーフェクトです。

 

 

姿勢はふつうのアラベスクスパイラルなんですけど、チェンジエッジをうまくつかって、信じがたい距離をあっさりと進みます。スピードもおちません。体の柔軟さ、姿勢の美しさ、ブレードの力を最大限にいかして進み、さらにはチェンジエッジの技術でさらに進む,,,

 

当時は当たり前のようにふうん、とみてたのでうが、とんでもない技術です。昨今、スパイラルがはいっている振付ありますけど、クワンのレベルのスパイラルが当たり前なんて思ってた人間には、シンプルなアラベスクスパイラルで感動するのは、まず無理な話です。スパイラルの必須をもう一度復活させて、このレベルをめざすようにしむけてほしいものです。

 

このスパイラルこそ、アメリカのスケートが、知恵袋が北米系のスケーティングの特徴とするスピードと距離を満たしているという証拠ですね!

 

音楽的な要素「メロディ主体」という特徴はまさしくそなえていますし。

 

ところが、面白い特徴がアメリカのスケートにはあります。

 

昔のコンパルソリーがどうだったか、という点なんです。

 

コンパルソリーって、図形を描く思想で発展していった欧州系が強いのは想像つきますよね?実際、旧ソの選手なんて、機械か、と思うほど正確だったようで、上位につけていました。

 

逆にだめだったのはカナダです。ブライアン・オーサーはサラエボでコンパルソリーで7位と大いに出遅れて、SP、FSで1位になって銀メダル。コンパルソリーなかったら、文句なく金をとっていたでしょう。コンパルソリーなんて放送されませんでしたから、SPがはじまるとなんだかいつもあぶなっかしい順位にいる、なんて思ってました。もう記憶から失せてしまってますが、カート・ブラウニングも苦手だったようです。カナダのスケートって、スピードと伸びが身上なんですから当然といえば当然でしょうか。

 

また、二人とも、コンパルソリーの練習しそうなタイプでないんだ..

 

.オーサー自書で「(コーチのダグ・リーがコンパルソリーの練習をさせようとするのだが)私はとても活動的な子どもだったので、そんなにじっと集中して図形を描く練習などできません。すぐにジャンプとかスピンとか、フリーの練習をしてしまうのです。仕方ないですよね。だってジャンプは楽しいではありませんか」(チーム・ブライアン p.54)何て書いてます。カートも同じような調子だったにちがいない(^_^;)仮にパトリック・チャンがコンパルソリーに参加していたら、上位3名までにはいったんじゃないか、という気はしますけど。あのスケーティングはコンパルソリーでみがいたものですから。

 

でも、同じ北米系でも、アメリカのスケーターって、カナダほどコンパルソリーに苦戦していません。アメリカのスコット・ハミルトンはサラエボの金メダリストですが、コンパルソリーで1位だったおかげでSP、FSでオーサーに敗れても、総合で勝ってしまいました。地道でも勝つためなら苦労を厭わないか、勝つために大切とわかっていてもつい楽しいほうに流れるかによってちがうのか、アメリカのスケートはカナダよりも欧州の図形をえがくのに適しているかなのかは、いまいちわかりません。たぶん、前者のほうです。記憶が正しければ、カルガリーの金メダリストでアメリカ代表だったブライアン・ボイタノは、ジャンパーではあってもスケートがいまいち、という選手から、コンパルソリーをやることですばらしいスケートをするようになりました。

 

ついでに書いてしまいます。こればっかり。

 

カナダでスケーティングだけで楽しい、と思った選手ってたくさんいます。

このブログ、カナダのスケートとすぐ口にするでしょ?私にとって最上級のスケートなんです。自分にとっては、スピードとグライディング(フローでもいいけど)がフィギュアの醍醐味でして、カナダのスケートの特徴って、その要求を満たしてくれるのです。

ぱっと思いつくだけでも、ブライアン・オーサー、カート・ブラウニング、エルビス・ストイコ、ジェフリー・バトル(カナダのスケーターにめずらしく「リズム」で滑れます。その分、グライディングはカナダにしては少し控えめかな。振付もリズムが主体で考えているのじゃないかと思ってます)、パトリック・チャンといった代々のカナダチャンピオン、あとケイトリン・オズモンド。

カナダの女子より男子向けのスケーティングかも。女子はちょっといいかも、と思っても、ジャンプと両立できてないです。あのスケーティングにふさわしいジャンプをするにはかなりの筋力が必要でしょう。

他にもいます。キーガン・メッシングはもとはアメリカの選手ですけど、カナダのスケートといいきっていい滑りです。だいたい、ストイコを見てスケートはじめた選手です。ジャンプであんなに転倒しなければ9点台にのるスケートにみえますけどねえ。あのかたときも表現をやめないトランジション、すごいです。なぜあれが評価されないのかしら。本番でジャンプミスがあいついだとしても、エキシビションでは注目してくださいね。今年のエキシ、最高に楽しいですから。スティーブン・ゴゴレフ。まだ子どもの体でして、膝が完成されておらず、エッジが認定されていない軽すぎるスケートです。でも、あと数年もすれば歴代カナダチャンピオンと同等のスケートするようになるとみています。形ができていますもん。効果的に実行するだけ成長してないだけです。しかもジャンプをきちんととびわけてますし、真性ルッツをはじめ、みごとな4回転をとぶ可能性は極めて高い。大きくごつくなりすぎるかもしれない、という懸念はありますけど、それよりポテンシャルの大きさが際立っています。

一方、アメリカですごい、と思ったスケーティングをしていたのは極めて少ないです。ジョニーやアシュリーの表現は大好きですが、スケート巧者とまでは...私がスケーティングにひかれたのは、

ブライアン・ボイタノ
トッド・エルトリッジ
ジェレミー・アボット

そろそろ、ジェイソン・ブラウンを追加したくなってきています(^^)

で、アボットはそれほど古くはないといいはるにしても、あとはかなり古いです。カルガリー・オリンピックのボイタノ、長野とソルトレイクのエルトリッジ。これはいったい...

フランク・キャロル流のすべりが好きでないというのがおおきいのだと思います。独特の姿勢じゃなかったですか?どうもお尻がつきでてみえて...ミシェル・クワンはスパイラルは好きですが、この定義にあてはまってしまったのです。スパイラルにはいる前の姿勢みてくださいね。さらにはフランク・キャロル組で一番のスケートをしていたデニス・テンはアメリカ人ではありません。デニスはお尻がつきでているなど思ったこともありませんけど。バンクーバー金メダリストのライサチェックがすばらしいすべりのスケーターという人はあまりいないと思います。ジョシュア・ファリスが脳震盪をおこさず今もすべっていたら、このリストに加えているかもしれません。でも北米型の典型とは思ってないでしょうねえ、


こんなところでこの話題はおひらきに。おつきあいくださいましてありがとうございました。